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週末が楽しみだと仕事にハリが出ると、今更気がつく三十代半ば。
「長谷部さん、ちょっと図面だけ見てもらっていいですか?」
萩原のデスクまで行って一緒にモニタを覗いていると、野口さんまで一緒に覗きこむ。
相変わらず綺麗だな。
何年か前にこんな位置に顔があったら、緊張しちゃってモニタに集中できなかった。
ある意味、自意識過剰なんだな。俺がそこに居るってことを、彼女が意識するわけじゃないのに。
ありがとうございました、と頭を下げる萩原のデスクから離れて、ロッカールームに向かう。
ふと視線を感じて振り向くと、山口が立っていた。
「調子良さそうですね、長谷部さん」
「ん?変わんねーぞ?」
「いやいや、なんか最近、顔色がいいっつーか」
外から丸わかりな程、俺は浮かれているんだろうか。
俺が自分の顔を撫でると、山口は人が悪そうな顔で笑った。
「ほんっとに長谷部さん、素直で、大好き」
カマをかけて遊ぶのは、止して欲しい。
どんどん秋が深くなっていき、水元が居る週末が、回を重ねる。
どこかに出掛けるよりも、一緒に買い物に行って、お互いの食生活を見せ合うようなことが楽しい。
「都合の悪い日」には、ただ手を繋いで眠った。
洗面台には歯ブラシが二本並び、冷蔵庫に知らない調味料が増える。
一緒に居ると、細かい生活習慣の違いや、テレビ番組の好みの傾向の差がわかる。
はじめの時以来、水元は「自分が劣っている」とは言わないけれど、時々、俺に対して遠慮してるなと思う。
料理の味付けや掃除の方法で食い違うたびに、水元は自分の意見をひっこめる。
週末の一日だけでも、生活を水元の形に変えてしまえば良いのに。
十一月も終わり近くなり、俺の部屋には水元のパジャマが置かれるようになった。
チェストの引き出しを水元用にひとつ明け渡し、金曜の晩に一緒に帰るのが日常に変わった頃、会社の仲間にもバレた。
まあ、力一杯隠すつもりもなかったし、実は避妊もしてない。
俺の気持ちとしては、それくらいには固まっているのだ。
ただし、水元の考えを聞いたことはない。