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眠ってしまうのも惜しくて、肩を並べたまま話し続けた。
隣に水元がいて、その体温に直に触れている。
ただそれだけが嬉しくて、水元がウトウト眠ってしまった顔も嬉しくて、自分が眠りに落ちたのは、もっと後だった。
体温で暖まった布団の中、こんなに満ち足りた気分で眠るのは、とても久しぶりだと思いながら。
翌朝目を覚ますと、部屋の中に水元の姿はなかった。
帰ってしまったのかとがっかりして、布団を被りなおして二度寝を決め込んだら、玄関ががちゃりと開く音がした。
がさがさとビニール袋の音がする。何か買い物をしてきたんだろうか。
寝室の引き戸を開けると、水元は座卓の上にコンビニの袋の中身を並べているところだった。
「おはよ。なかなか起きて来ないから、適当に買ってきちゃった」
自分が朝食を摂る習慣がないので、全然思い及ばなかった。
自分ひとりだけが生活している場所に水元がいることが、なんとなく不思議だ。
自分だけが寝巻きで、水元はビジネス服を着ているのも、また不思議な気がする。
同じカウチに腰掛けて、水元が買ってきたサンドウィッチをもそもそと食べる。
「今日、どうする?」
「ん?帰るよ。洗濯も掃除もしなくちゃならないし、アイロン掛けとか買い物とか」
けろりと言われると、寂しい。
せめて夜まで、とか思ってるのに、水元は身の回りを片付け始める。
喋り足りないし触り足りないし、見足りない。つまり、帰って欲しくない。
「明日は?」
「ちょっと実家に顔出し。平日はなかなか行けないからね」
俺は年に二度ほどしか、実家に顔を出さないから、その辺はよくわかんないけど。
「もう少し、いいだろ?」
ちょっと情けないけど、未練がましく肩を抱くくらいしかできない。
キスして、もう一回寝室に連れて行って、陽は傾いてしまう。
「きりがないね」
服を着けて、今度こそ帰り支度をした水元を、駅まで送った。
「嬉しくて、幸せだった」
改札で笑顔を見せた水元を、今までで一番綺麗だと思った。