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行灯の昼  作者: 蒲公英
タイミングの問題
58/77

1

眠ってしまうのも惜しくて、肩を並べたまま話し続けた。

隣に水元がいて、その体温に直に触れている。

ただそれだけが嬉しくて、水元がウトウト眠ってしまった顔も嬉しくて、自分が眠りに落ちたのは、もっと後だった。

体温で暖まった布団の中、こんなに満ち足りた気分で眠るのは、とても久しぶりだと思いながら。


翌朝目を覚ますと、部屋の中に水元の姿はなかった。

帰ってしまったのかとがっかりして、布団を被りなおして二度寝を決め込んだら、玄関ががちゃりと開く音がした。

がさがさとビニール袋の音がする。何か買い物をしてきたんだろうか。

寝室の引き戸を開けると、水元は座卓の上にコンビニの袋の中身を並べているところだった。

「おはよ。なかなか起きて来ないから、適当に買ってきちゃった」

自分が朝食を摂る習慣がないので、全然思い及ばなかった。


自分ひとりだけが生活している場所に水元がいることが、なんとなく不思議だ。

自分だけが寝巻きで、水元はビジネス服を着ているのも、また不思議な気がする。

同じカウチに腰掛けて、水元が買ってきたサンドウィッチをもそもそと食べる。

「今日、どうする?」

「ん?帰るよ。洗濯も掃除もしなくちゃならないし、アイロン掛けとか買い物とか」

けろりと言われると、寂しい。


せめて夜まで、とか思ってるのに、水元は身の回りを片付け始める。

喋り足りないし触り足りないし、見足りない。つまり、帰って欲しくない。

「明日は?」

「ちょっと実家に顔出し。平日はなかなか行けないからね」

俺は年に二度ほどしか、実家に顔を出さないから、その辺はよくわかんないけど。


「もう少し、いいだろ?」

ちょっと情けないけど、未練がましく肩を抱くくらいしかできない。

キスして、もう一回寝室に連れて行って、陽は傾いてしまう。

「きりがないね」

服を着けて、今度こそ帰り支度をした水元を、駅まで送った。

「嬉しくて、幸せだった」

改札で笑顔を見せた水元を、今までで一番綺麗だと思った。


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