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誰の目もない場所でのんびりと夕食を摂り、会社のこととも私的なことともつかない話をする。
俺の部屋の食器はバラバラだし、自分も着替える機会を失って、会社にいた服装のままだ。
だけど、やっぱり何か違う。
簡単に片付けて、自分用に缶ビールのプルタブを引き、隣で水元がペットボトルからお茶をグラスに注いでいる。
騒がしいのはテレビだけ、水元の寛いだ顔が嬉しい。
水元の頭が、こてんと俺の肩に乗った。
引き寄せてキスしたら、止まらなくなった。
どこもかしこも触りたくて、カウチに押し付けて抱きしめても、全然おさまらない。
「泊まってけよ」
「……んっ……だから、お買い物してきたの」
俺の胸を押した水元は、パジャマは貸してね、と笑った。
「買い物って」
「女が泊まるには、いろいろあるのよ。化粧品とか下着の替えとかね。急な申し出は困るわけ」
先に用意してきたって、はじめから泊まるつもりで……
「余計な買い物させて、悪かったなあ」
でも、すげー嬉しい。
「先にシャワー行ってくる」
普段ならタオルで拭きながらそのまま居間に入っちゃうけど、そうも行かないだろ。
それに、風呂場をちょっと掃除しなくちゃ。
一応1LDKのつくりだから、狭いながらも脱衣場はあるけど、洗面台のシンクはずいぶん前から洗ってない。
ここに引っ越してから、女の子入れるのは初めてだったな。
自分の身体を洗いながら、風呂場の壁も流す。
これから水元がここを使うんだと思うと、やけに力が入ってしまう。
石鹸も新しいの出しといたほうがいいかな、なんてね。
裸のまま洗面台まで掃除して、新しいタオルを脱衣籠に出して、やっと居間に戻ったら、水元は所在無げな顔でテレビを見ていた。
洗濯済みのTシャツとスウェットを渡し、水元を風呂に追い立てた。
その間に、寝室に散らかっているタオルと着替えを、洗濯機の中に押し込む。
自分が有頂天になっているのは自覚していて、それを抑えるつもりはない。
だって、嬉しいんだから。
ついでに掃除機までかけているところで、風呂場の扉が開いた。
普段の生活にはない、良い匂いがする。
花の匂いか?あと、なんだかもっと柔らかな匂い。湯気で上気した顔。
掃除機を持った中腰のまま、思わず動きが止まった。
「やだ、掃除なんてしてたの?」
水元が軽快に笑い、照れ笑いを返す。
肩の余るTシャツに、腰がぶかぶかのスウェットの水元を寝室に導いたのは、その後のことだ。