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行灯の昼  作者: 蒲公英
はじまりの実感
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7

誰の目もない場所でのんびりと夕食を摂り、会社のこととも私的なことともつかない話をする。

俺の部屋の食器はバラバラだし、自分も着替える機会を失って、会社にいた服装のままだ。

だけど、やっぱり何か違う。

簡単に片付けて、自分用に缶ビールのプルタブを引き、隣で水元がペットボトルからお茶をグラスに注いでいる。

騒がしいのはテレビだけ、水元の寛いだ顔が嬉しい。


水元の頭が、こてんと俺の肩に乗った。

引き寄せてキスしたら、止まらなくなった。

どこもかしこも触りたくて、カウチに押し付けて抱きしめても、全然おさまらない。

「泊まってけよ」

「……んっ……だから、お買い物してきたの」

俺の胸を押した水元は、パジャマは貸してね、と笑った。

「買い物って」

「女が泊まるには、いろいろあるのよ。化粧品とか下着の替えとかね。急な申し出は困るわけ」

先に用意してきたって、はじめから泊まるつもりで……


「余計な買い物させて、悪かったなあ」

でも、すげー嬉しい。

「先にシャワー行ってくる」

普段ならタオルで拭きながらそのまま居間に入っちゃうけど、そうも行かないだろ。

それに、風呂場をちょっと掃除しなくちゃ。

一応1LDKのつくりだから、狭いながらも脱衣場はあるけど、洗面台のシンクはずいぶん前から洗ってない。

ここに引っ越してから、女の子入れるのは初めてだったな。


自分の身体を洗いながら、風呂場の壁も流す。

これから水元がここを使うんだと思うと、やけに力が入ってしまう。

石鹸も新しいの出しといたほうがいいかな、なんてね。

裸のまま洗面台まで掃除して、新しいタオルを脱衣籠に出して、やっと居間に戻ったら、水元は所在無げな顔でテレビを見ていた。

洗濯済みのTシャツとスウェットを渡し、水元を風呂に追い立てた。

その間に、寝室に散らかっているタオルと着替えを、洗濯機の中に押し込む。

自分が有頂天になっているのは自覚していて、それを抑えるつもりはない。

だって、嬉しいんだから。


ついでに掃除機までかけているところで、風呂場の扉が開いた。

普段の生活にはない、良い匂いがする。

花の匂いか?あと、なんだかもっと柔らかな匂い。湯気で上気した顔。

掃除機を持った中腰のまま、思わず動きが止まった。

「やだ、掃除なんてしてたの?」

水元が軽快に笑い、照れ笑いを返す。

肩の余るTシャツに、腰がぶかぶかのスウェットの水元を寝室に導いたのは、その後のことだ。

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