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行灯の昼  作者: 蒲公英
はじまりの実感
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6

「長谷部、最近楽しそうだなあ」

現場に出る途中、生田さんに声を掛けられた。

「変わんないですよ」

「女でもできたんじゃないのか?」

こういう時は、沈黙するに限る。

水元は何も言ってないんだし、俺だけがはしゃいでたら、申し訳ない。

会社生活は代わり映えなく過ぎて行くし、今のところ大プロジェクトで忙しいなんてこともない。


子供のお迎え当番だと言いながら、津田が帰っていく。

津田の奥さんは、辞める前になんだかあったみたいだけど(よく知らない)、多分出会うべき相手同士だったのだと思う。

過去に何があっても、それが人としての性格なり人生観なりを形成しているのだ。

だから同じ人間であっても、出会うタイミングによって、相手に向ける視線は変わっていく。

俺は、運が良かった。

水元は今独身で、俺も今独身で、お互いに他の相手を見つけようとしていない。


金曜日の晩、まだ会社に残っていた水元に、声を掛けた。

「帰れる?」

経理部には人がいなかったし、帰宅経路は途中まで一緒だから、どうせなら一緒に帰ろうと思っただけだ。

「ん、ちょっと待ってて」

そう言ってPCを落とす作業を、見ていた。

文房具をしまいながら、目頭を揉み解している。

肩を揉んでやろうかと思って、それが今自分にとって余計な行為だと気がつく。


肩になんか触ったら、他の事がしたくなる。

そう思い始めたら、水元の柔らかい唇の感触が蘇ってきた。

明日会うのも、今日一緒に帰るのも、大して変わらない。

我慢していたつもりはなかったんだけど、そう考え始めたら、気が急いてきた。

いいよな、俺の家で夕食にしようって言うくらい。

地下鉄の中で夕食の相談をしようとする水元を制して、俺の家でと提案してみた。

水元はしばらく考えた後、その前に買い物をしたいと答えた。

池袋の駅で、本屋に俺を残して、水元はショッピングビルの中に消えていった。


三十分程度で戻った水元は、いくつか袋を持っていた。

「何買ったの?」

「ないしょっ!さて、デパ地下もダンピング時間だから、美味しいもの買ってこ」

並んで食事の内容を相談するのも楽しい。

同じ場所に帰るってだけで、ワクワクする。

良かった、断られたりしなくて。

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