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行灯の昼  作者: 蒲公英
はじまりの実感
52/77

3

「帰っちゃうの、もったいないな」

夕食が済んで送っていく電車の中、水元が言う。

それは、ええっと、何か違う意味にとっていいんだろうか。

慌ててる俺とはうらはらに、水元はごくごく普通。

「明日も会おうか」

あ、そういう意味ね、とちょっと安堵して、結構がっかり。

俺だって男だからさ、そういうところは期待してるし、お互い大人だから、それは当然といえば当然だろ。

ただ、間合いが計り難いんだな、つきあいが長すぎて。


住宅街の真ん中で、繋いでいた手に力を入れた。

「どうしたの?」

水元が俺を振り仰ぐ。

上手い言葉が見つからなくて、水元の顔を見下ろした。

しっかり者で、何でも自分で解決しちゃう水元に、俺は何ができるんだろう。

「長谷部君?」

瞬間、自分でも見えない感情に促されて、逆側の手で水元の肩を抱いた。


「ちょっ、ちょっとっ!どうしたのっ!」

慌てた水元が逃げようとするので、つい、両手を回した。

ああ、住宅街の真ん中の体勢じゃないなと、自分の中の自分がツッコミを入れる。

でも、一言だけ言いたい。

これだけは、今言いたい。

「ありがとうな」

「へ?」

ジタバタと水元が動く。

「俺なんか気に入ってくれて、ありがとう」


急に力の抜けた水元を、まだ離したくはない。

だけど場所が場所だし、ほら、また通行人。

「ばか」

ぎゅっと深く組まれる腕。

これって下田さんもよくやった行動だけど、人によって嬉しさが違い過ぎ。

下田さんみたいに胸の感触がリアルじゃないけど、水元のほうが百倍嬉しい。

水元の家まで送る、その時間も名残惜しい。


あっけなく到着しちゃったワンルームマンションの前。

「送ってくれて、ありがと。明日、気が向いたら電話して」

「水元が気が向かなかったりして」

軽く返した言葉の返事に、ちょっと箍が外れた。

「長谷部君が電話してくれるの期待して、一日中待ってるもん」

子供じみた言葉なのに、何かのスイッチだったらしい。

街灯とマンションの煌々とした灯りが漏れてくる場所で、水元にキスした。


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