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水元のワンルームマンションの前まで送って、結局仕切りなおしも進展もなく別れる。
それでも何か、ほっこりとしたものが胸の奥にある。
約束はしなくても、水元との時間がこれからゆっくりと流れる予感がある。
次は、一緒に何をしようか。
次は、どんな顔を見られるんだろう。
触りたいとかキスしたいとか、そんなことよりも先に、水元ともっと近寄りたい。
お金を出せば相手してくれるおねーちゃんは居るけど、水元に望むのは、もっと別のことだ。
何年か前につきあってた女の子は、まず結婚の話が先立った。
俺より結婚に興味があったんだっているのは、今になって理解できる。
下田さんは、自分のフィルタを通してしか、俺を見てなかった。
水元は何年も掛けて俺を知っていて、情けないとことか口下手なとことか全部知っていて、それでも好きだといってくれた。
水元が辛い顔をしていた時も、仕事で走り回っていたときも、俺は何かしてやったわけじゃないのに。
何かしてやりたい、と思った。
俺は不器用だし、うまいことなんて言ってやれないし、連れて歩いて自慢って彼氏にもなれない。
でも水元が本当に、このままの俺を気に入ってくれてるんだとしたら、何か返したい。
俺を気に入ってくれたってだけで、何か大切なものを貰った気がする。
だから何でもいいから水元に、それ以上のことをしてやりたい。
こんなことを考える自分が、すごく青臭く思える。
いいじゃないか、経験値は低いんだから。
自分の部屋に帰って、壁のスイッチをぽつんと押す。
白っぽい蛍光灯の灯りに照らされた部屋は、味気ない。
一応の掃除はしているし、ひとりの時間を過ごすために、何不自由なく揃った部屋なんだけど、何か足りない。
夕方からの時間が充実したから、気がついたことがある。
仕事以外の人間関係で、会話を楽しんでいるのなんて、本当に久しぶりなんだ。
それが水元であることが、とても嬉しい。