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子供相手で歩き疲れたと水元が言い、すぐに座れる場所を探した。
「疲れてんなら、無理しなくても」
「やだ。忘れたフリされるから」
忘れたフリ……仕切りなおしってヤツか?覚えてんなら、何も仕切りなおさなくても。
「今日は素面だもん。幻聴じゃないって納得できる」
「……俺、ちょっと飲みたいかも」
少なくとも、デパート内の明るいレストランで言いたくはない。
「いいよ、帰るまでで」
にへっと笑った水元が、照れくさそうに頷く。
こんなに子供っぽい顔してたかな、水元って。
俺が知ってる水元は、気が回って頭の回転が早くて、責任感の強い女だ。
頼りになるけど可愛くないって話は、聞いたことがある。
可愛くないなんて、とんでもない。
これは「欲目」なんだろうか?
翌日仕事だから、あんまり遅くなる気はない。
九時過ぎには送っていこうと立ち上がる。
「忘れてないでしょうねえ」
くそ、そっちこそ忘れろ。照れくさくていけない。
大体、さっきから可愛くてしょうがない。
会社でそんな風に思ったことなんて、ないんだけどな。
地下鉄で水元の住む駅まで行って、一緒に歩き出す。
道の半ばまで歩いたら、水元は立ち止まった。
「仕切りなおし」
「うん」
先週みたいにイキオイがついてないから、言い難いったらない。
うう、と口籠もったまま、言葉に詰まる。
俺の顔を見る水元の目が光って、綺麗だ。
視線に吸い寄せられて、思わず顔を近づけた。
ぶぶっと吹き出した笑いに面食らったのは、その後。
「ごめっ……ごめんっ……なんか照れちゃってっ……」
身体を折り曲げて笑い出した水元が、途切れ途切れに言う。
途端にこっちも恥ずかしくなって、一緒に笑い出してしまう。
ムードも仕切りなおしも、ありゃしない。
今までただの同僚で、今日から恋人なんて変化は、なかなか難しい。