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「今週の日曜……」
「あ、ごめん。妹の子供と動物園に行かないと。土曜は?」
「現場だけど」
どうも、間が悪い。
かといって、平日に一緒に会社から出て行くってのも、どうかなって感じだ。
俺と水元が一緒にいたところで、不思議に思う人もいないと思うけど。
相当酔っていた水元が、記憶しているかどうかわからないけど、素面の時に仕切りなおすのであれば、その場は会社から離れていたい。
同じ場所から出発して、途中で待ち合わせるってのも、殊更に秘密めかしてる気がして、気乗りしない。
なんだかなあと過ごした日曜日、煮えきれない気分の夕方に水元からメールが来た。
〔池袋まで出て来れる?〕
こっちはひとりでメシ食って寝るだけだから、ほいほいと出て行く。
なんかさ、これから待ち合わせる相手がいるってだけで、浮かれちゃうもんだね。
良い香りの石鹸ショップで商品を物色している水元を、店の外から見ていた。
ちらっと見えた値段にびっくりして、そういえば、前につきあった女の子の化粧品の金額に驚いたことがあったなと思う。
「やだ。来てたんなら、声をかけてくれればいいのに」
振り向いた水元が、商品を手に笑う。
「この香り、好き?」
鼻先に突きつけられたのは、強い花の香りだ。
「いや、嫌いじゃないけどさ。ちょっと強い」
「このまま身につけるんじゃないもの。洗い流したあとに、肌に残るのよ」
これがまた、微妙にエロチックなセリフだ。
その香りが好きかと聞いた後、肌に残ると言う。
会計をしてもらっている水元は、何事もない顔をしている。
俺が深読みしてるのか?
「お待たせ。ごはん、何食べようか」
隣に立った水元は、ものっすごくナチュラルな表情だった。