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行灯の昼  作者: 蒲公英
どうしたもんやら
46/77

3

帰りの電車に揺られながら、何がどうなってるのか整理しようと思った。

にもかかわらず、俺の頭の中には水元の「すかたん」が繰り返しているのである。

しかも気を抜くと頬が緩むってオマケつきだ。

なんだってんだ、三十代も半ばになってるってのに。

しかもこの歳になれば、そんな話ははじめっから「結婚前提」なのである。

水元と結婚、ねえ。

想像もつかないな……って、気が早い。

要するに、浮かれているのだ。


「長谷部、なんだか調子良さそうだな」

「そうっすか?」

月曜日の朝、生田さんに声をかけられて、思わず顔を撫でる。

「色艶いいぞ、女でもできたか?」

これは普段の生田さんの挨拶で、眠り足りた月曜日なんかの常套文句なのだ。

「そうだ、早いとこ仲人やらせろ」

部長が一緒に突っ込んでくる。

三十代半ばで独身ってのは他にもいるんだけど、何故か俺にはこういう話題を振りやすいらしい。

それを横目で見ながら、水元が普通の顔で通り過ぎる。

上手いもんだな、と思う。

それとも俺が、意識しすぎか。


安全靴の靴紐を締め上げていたら、山口がロッカールームに入ってきた。

「現場ですか?」

「おう。涼しくなったから、外が気持ちいいよ」

別に話があるわけじゃなくて、山口はロッカーから黒いネクタイと喪章を出しただけだ。

「木島設計さん、葬式なんですよ。手伝い頼まれちゃって」

「あそこ、所長だけじゃなかったか?」

「そうそう、サカグチ・アーキテクツが仕切ってます」

営業だと、そんなことも仕事のうちだ。

しみじみと俺には向いてない。


「長谷部君、肩揉んでぇ」

水元のその言葉は、やけに久しぶりだ。

夕方の給湯室、定時を過ぎて派遣社員たちが華やかに帰っていく。

「前より幾分マシか?それにしてもひでえな、老眼じゃないのか」

首の付け根をつまんで、細いなと思う。

「痛いよう……私が老眼なら、長谷部君も可能性あるじゃない」

ご尤も。なんせ同い年だ。


「また長谷部さんに肩揉ませてるんですか?本当に仲良いですよね」

入ってきた萩原が、自分のカップをすすぐ。

「坂本さん、元気?」

俺の手を離させた水元が笑う。

「これから会いますよ、来ます?」

堂々と自分の女だって主張できるのって、いいよなあ。

なんか俺、すごく微妙なんだけど。


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