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「……嘘」
調子がいいことを言えるほど器用じゃないことは、水元も知っているだろう。
「嘘じゃないよ」
酔っ払いの目が、みるみる潤んだ。
「だって私、バツイチだしっ!」
「知ってる」
「若くないし!可愛くないし!」
「それ、さっきも聞いたから」
「長谷部君は優しいから、イヤだと思ってもなかなか言えないと思ってっ!」
「俺もそう思ってた。水元に迷惑じゃないかって」
住宅街の静かな道で、水元は困った顔で俺に拳を掴まれていた。
「急にそんな風に言われたって……」
いや、急に言われたのは俺も同じだから。
変なところで似た物同士らしいな、俺ら。
頭の回転が早くて気の回る水元は、意外なところでおっとりしている。
「うわあん、もったいないっ!」
水元は急にしゃがみこんだ。
「こんな大事なこと聞くのに、私、酔ってるうっ!長谷部君は二度とこんなこと言ってくれないぃっ!」
大学生らしき若い男が道を歩いてきて、俺たちをまじまじと見ながら通り過ぎて行った。
慌てて、水元を立ち上がらせる。
「言うっ!素面の時に言うから、立て!」
「嘘だね。長谷部君みたいなあんぽんたんは、そんなことしてくれないね」
ガキみたいになった水元の指示通りの道順で送った。
駅から十二・三分ってとこなんだろうけど、歩くのに三十分以上かけた気がする。
「ここ、私が住んでるとこ」
小さなワンルームマンションっぽい建物を、水元は見上げた。
えーっと。どうしたらいいのかな、こんな微妙な時。
「素面の時に仕切りなおすー。すかたんの長谷部君、おやすみー」
今一つ呂律の怪しい水元が、オートロックを開錠してロビーに消えていった。