1
宣言通り酔った水元を送って、初めての駅に降りた。
家まで送ってからどうすればいいのか、なんて下世話な妄想をして、そうじゃないだろうと自分にツッコミを入れる。
土曜日の十時過ぎは、住宅街を歩く人は少ない。
「酔った勢いだから、言っちゃうよぉ」
妙に舌足らずで、酔った顔は真っ赤で、会社にいるオトコマエの水元とは別人だ。
「長谷部君って、ぜんっぜんわかってない。私が何を迷ってたんだかも、わかんないでしょ」
「水元って、前から……」
俺のこと好きなのかって聞くのはおかしいし、興味があったのかってのも、違う気がする。
「好きでもない男に、肩なんて触らせるか」
聞こえたんじゃないかってタイミングで、水元が言う。
「下田さん、辞める時に私になんて言ったと思う?長谷部さんは水元さんのこと、女として見てないって言ってます、残念でしたー、だって」
くそぉ、と小さい声で呟くのは、いささか水元らしくない。
ってか、女って怖い。思い込みだけでそんなこと言っちゃうのか。
「どうせバツイチだよ。若くもないし可愛くもないよ」
いきなり俺の肩に拳が降ってきた。
「だから、黙って好きでいる予定だったのにっ!」
続いて降ってくる拳を、思わずよけた。
「一回だけ記念にデートしちゃお、なんて思ったら、続けて誘ってくれるんだもん!期待しちゃうじゃない、この唐変木がっ!」
おいおいおいっ!ここで暴れるなっ!ってか、なんかすごく予測外の展開に……
もう一度振り上げられた拳を掴む。
酔って焦点の合わない目が、俺を懸命に見ていた。
「ばか。いいよ、慰めてくれなくて」
慰めてるんじゃなくて、ええっと。
「俺が言いたいこと、水元が言っちゃったんじゃないか」
急展開に、頭がついていかない。
「唐変木で、悪い。俺が気がついたのは、つい何日か前だ」
「何によ!」
「水元ともっと一緒にいたいってこと」
水元の目が大きく開き、拳から力が抜けた。