7
「なんか、怒ってる?」
おそるおそる聞いてみる。
「すかたん」
「へ?」
「あんぽんたん」
「なんで?」
「もういいっ!」
水元はぷいっと横を向く。
素面だよな、大して飲めないんだから。
黙ってしまった水元を、どうしていいもんだか持て余して、俺も黙って梅割を飲んでいた。
「長谷部君って本当に……」
水元が急に笑い出したので、機嫌が直ったのかと一息ついたら、次の言葉でふいを突かれた。
「鈍いにも程がある」
「何が?」
思わず声が大きくなる。
「とうにはへんなきがはえている」
「何だよ、それ」
「唐変木って言ったのよ、すかたん」
唐変木って、すかたんって、俺?
「ここのところ、ずっと態度に出してたつもりなんだけどなあ。そんなに私の態度って、気にならないかなあ」
水元は頬杖をついて俺を見る。
「それって、あの」
意味がやっと頭に届いた。
「ずいぶん遠慮してたんだよ、私。バツイチだし、トシもトシだし」
ええっと、それってその、俺が受取りたいように受取っていい言葉なんだろうか。
「鳩が豆鉄砲食らったみたいなって表現、あながち間違ってないね」
頬杖をついたままの水元が、表情を崩さずに続ける。
「すっごく照れくさいんだけど。何か言ってくれないかなあ」
何か言えって言われたってね、何を言えばいいって言うんだ。
俺は、口下手だ。ツラも女ウケしない。
だからまさか、普段の俺をそう思ってくれる人がいるなんて、想像もしていなかったのだ。
確認の言葉が出そうなのを、慌てて飲み込む。
水元は膨れた顔でメニューを開いて、オーダーを聞きに来た店員に、俺が飲まないワインを頼んだ。
「酔ったら、長谷部君の責任で送ってってよ」
水元のリミットは、確か中ジョッキ三分の二だった。