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いつも通り夕方になって、帰ろうと電車に乗る。
乗換駅で別れようとして、帰り時間が惜しくなった。
「晩メシ、食ってかない?」
水元は不思議な顔で笑った。
「やっと、誘ってくれた」
やっと……?えーと、それって。
頭を一生懸命使っている間に、水元が歩き出す。
「とうにはへんなきがはえている」
歌うように呟いた言葉には、聞き覚えがある。
「それ、何か意味がある言葉?」
「わかんないんなら、いい」
わかんないから、聞いたんだろ。
普通に居酒屋に入って、ぼんやりと水元の顔を見る。
今日は綿のセーターにジーンズ、カジュアルな分若々しく見えて、やっぱり会社で会うのと違う。
「悪いな、晩メシまでつき合わせちゃって」
「あのねえ。休みの日にまで、気が向かない相手と出掛けると思う?」
水元は頬を膨らませて、子供っぽい顔をした。
「長谷部君って、自分のこと過小評価してない?下田さんにだって、向こうから誘われたんでしょ」
だってあれは、何かの勘違いで。
「ほら、そうやってびっくりした顔する。甲斐のない男ね、まったく」
ふう、と溜息をついた水元が何を怒っているのかわからない。
「黙られちゃうと、何言っていいのか悩むのよね」
そう言った後、水元はふっと笑う。
「ま、いいや。長谷部君が長谷部君だって証拠みたいなもんだね」
それからはいつもの話になって、水元は機嫌良く皿をつつく。
気が回るのもいつもと一緒で、俺のジョッキが空く前に、追加のオーダーをしたりする。
楽だな、水元と一緒にいると。
水元も楽だと思ってくれてるといいな。
「水元って、俺と一緒に出かけたりメシ食ったりして、楽しい?」
聞いてしまったのは、肯定して欲しいからだと思う。
俺は、すごく楽しいんだって言いたい。
「ばか」
戻ってきた言葉が意外で、思わず顔を見返した。
「私、一回だって不機嫌な顔した?してないよね、楽しんでるんだから。そんなこともわかんないの?」
言葉が喧嘩腰で、うろたえる。
俺は何か、気に触ることを言ったろうか。