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「妹がねー、二人目出産で、家中ばたばたなのよ。不肖の姉、助っ人ー」
その言葉にほっとしながら、なんだかなあと考える。
本当なら、自分もそんな時期だもんな。
水元は女だから、もっと強くそう思っているかも知れず、そうすると俺と遊んだりするのは、生産性にもとる行為じゃないか?
いや、暇つぶし程度か。
「でも、今週は平気。どこか遊びに行きたい場所があったの?」
うっ、と詰まった。ないんだ、そんな場所は。
水元と遊びに行きたかっただけ。
詰まった俺の顔を見ていた水元が、笑った気がした。
「私ね、今、bunkamuraに来てる絵が見たいんだけど」
「おお、それ。じゃ、今週行こうか」
そうして約束して、普通に仕事する。
なんだかワクワクしてしまい、自分の脳味噌に「この浮つきようはなんだ」と問い合わせたくなる。
残業帰りにまた水元が自分の肩を揉み解していたので、声をかけた。
「揉んでやろうか?」
すぐに手が右左に振られ、苦笑いが戻る。
「大丈夫大丈夫。前ほどひどくないから」
「じゃ、お先にー」
経理のブースを出たら、ひとりごとめいた呟きが聞こえた。
「とうにはへんなきがはえている」
戻って聞き返すのもおかしな感じだし、俺に聞かせるつもりなら、多分呼び止めただろう。
書類読み上げたのかも知れないし。
週末を潰させて申し訳ないような気分と、それを上回る高揚感。
どうも俺は、水元と一緒に週末を過ごしたいらしい。
水元も楽しんでくれてると、いいなあ。
そして、もっとお互いの気心が知れれば。
……知れれば、どうなるんだ?
間抜けなことに、その時にやっと気がついたのだ。
水元とどうにかなりたいなんて思ってなかったから、自分で気がつかなかった。
もっと水元と深く知り合って、できれば毎週予約で埋めてしまいたいくらい、プライベートで会いたがってる。
俺って、自分への反応も、すっごく鈍い。