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「あ、長谷部さんも、メシ行きません?」
気楽に声をかけられたので、てっきり山口と津田だけかと思ったら、野口さんと水元が一緒だった。
同期の水元を呼び捨てなのに、年下の野口さんにだけ敬称をつけるってのもおかしいけど、距離感が違う。
多分それが、俺の融通の利かなさの証明のようなものなのだ。
居酒屋に腰を据え、身体なりに大食らいの津田が(こいつの奥さんは、かなり小柄だ)せっせと料理を口に運ぶ。
山口は津田をからかって遊び、野口さんが時々それに便乗する。
水元は若干大人らしい態度で、でも場から浮き上がらずに話に加わっている。
俺は、浮き上がっていないか?
確かに話しやすい面子で、野口さんにも昔ほど緊張はしない。
「長谷部君、梅割り?」
あまり酒の飲めない水元が、世話を焼いてくれる。
ノリ良く話せないことに、卑屈になる必要はないと、わかってはいる。
俺はこのペースでしか他人と付き合えないし、生まれ持っての外観を挿げ替えることはできない。
今風じゃないかも知れないけど、他人の迷惑にはならないわけだし、社会生活にも不自由はない。
ただ時々ふっと、山口みたいに喋れればいいな、とか、萩原みたいに女の子と気軽に口が利ければ、とか思う。
他人を羨むのに、 努力とか理屈はない。
「下田さんに飲みに誘われなかった?」
水元に話を振られ、ぼうっとした頭を会話に切り替える。
「糸川と一緒にって話?」
水元は曖昧な顔をした。
「長谷部さんにふられたぁって言ってたよ」
直接声をかけたのは俺でも、目当てはどう考えたって違うだろ。
「最近サービスは最近忙しいみたいだからね」
「ああ、あの子、結婚相手探すのに派遣やってる、みたいなところがあるからね」
山口が言葉を挟み、野口さんが同意する。
「仕事はちゃんとしてるんなら、問題ないんじゃない?」
津田がそう言うと、水元は箸でテーブルをとんとんと叩いた。
「ミスだらけなのよお」
「まだ入ってきて、二ヶ月だろ。慣れないんじゃないか?」
俺が返事をすると、山口は俺の肩をぽん、と叩いた。
「長谷部さんって、やっぱり優しいよなあ。先週、大変だったんじゃない?」