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夏の間に水元と3度一緒に出掛け、次はどこへ誘おうかと考えるのが楽しくなった。
昼前に待ち合わせをして夕方に別れるパターンが出来上がり、金のかかる場所に出掛けるわけじゃないし、同期同士でお互いの懐も推察できるしで、気楽なことこの上ない。
早くこんな楽しみ方、見つけとけば良かったな。
どこに行こうか何をしようかと考えるのは、ネットサーフィンするより刺激的だ。
水元の肩凝りは相変わらずで、残業のあと涙目で「肩が気持ち悪いよう」と、机に突っ伏していたりする。
前みたいに、俺に肩を差し出さなくなったけど。
肩揉んでやるくらいなんでもないんだけど、自ら肩に手を伸ばすのは、なんだかセクハラめいている気がしないでもない。
時々山口や津田と晩メシに行くと、ひょっこり現れたりはする。
「水元さんって、女の人なのに仕事の話ができて、いいですよねえ」
水元の社内の立場を、津田が明確な言葉であらわした。
そうなのだ。水元の性別は、女なのだ。
「今年は泳がなかったなあ」
4度目に待ち合わせた9月のある日、水元は大きく伸びをしながら言った。
「泳げんの?」
「……浮くことはできる。いいのっ!海に行ったりプールに行ったりって気分で、夏を実感するのよっ!」
ああ、季節モノのイベントにも、ここのところ、とんと無沙汰してるな。
「子供でもいればね、子供をダシにして遊んで歩けるんだけどねえ」
水元は溜息を吐く。
俺の友達も、やれ祭りだプールだと言って出歩いている。
ご苦労さん、とか思っていたんだけど、自分の楽しみでもあるんだな、あれは。
「子供、欲しかった?」
「ああ、彼女より先に妊娠してればって思うことはあったわね。だけど、こっちに子供ができて向こうもってことになったら、修羅場だったでしょうねえ」
けらけらと笑いながら、水元は手を振った。
「これからでも、チャンスはあるだろ」
俺が言った言葉は、慰めだったのか気休めだったのか。
ただ口に出した途端に、水元がまた誰かと結婚する可能性について、リアルに考えが至った。