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「今日は楽しかった!ありがとうね」
乗換駅で元気に手を振る水元に、手を振り返す。
何をしたわけじゃないのに、俺も楽しかったなあ。
水元も同じように楽しんでたなら、また一緒に出かけてもいいな。
楽しめることは、多い方が良いに決まってる。
休みの過ごし方が、ひとつ増えたじゃないか。
いつも通りの日曜日、洗濯と掃除をして、ごろりと横になる。
昨日の方が、疲れが取れた気がしたな。
考えたこともなかったけど、水元も当然今日は休みで、あいつは俺みたいにゴロゴロしてるんだろうか。
重い買い物は手が辛いとか言ってたけど、自転車はないのか?
運動神経がぶっちぎれてるって話だから、乗れなかったりして……まさかね。
気がつくと前日の外出を反芻していて、自分が普段どれほど退屈しているのか、自覚した。
次はどこに誘おうかと考えてしまう程度には。
一緒に出歩く女の友達ってのを今まで持たなかっただけで、他の人は普通にやってることなんだろう。
俺に積極的に近付いてくる女は居たことがなかったし、俺は俺で慣れないものだから、どうしても緊張してしまう。
水元に近付く男が多いのか少ないのかなんて、考えたこともなかったけど、一回結婚してるんだから、確実に水元を女として見る男がいるわけだ。
そういう意味では、水元は俺にとって貴重で稀有な存在だ。
だからってわけじゃないけど、少なくとも大事に考える対象ではある。
「土曜日はどうもー」
月曜の朝、かろやかに俺の目の前を通り過ぎた水元は、いつもの水元だ。
堅く考えることはないんだな。社内で知り合っても趣味で知り合っても、友達は友達だ。
そう思えば、次も気楽に声を掛けられる。
「今度は、水元のオススメの昼メシで行こう」
次に声をかけたとき、水元はかなり驚いた顔をしていた。