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水元と電車に乗っても気詰まりにはならないし、天丼は旨かった。
昼メシだけで帰るのももったいないねって、一緒に古本の街をぶらぶら歩く。
何せ影響を受けてきた文化が一緒だから、話はどこからでも繋がる。
「あ、ちょっとちょっと待って!」
一軒の古本屋を覗き込んだ水元は、何冊かの本を抱えて出てきた。
「これこれ、子供の頃、この装丁で読んだの!」
それは俺にも見覚えのある子供向けの本で、小人を見つけた少年が、大人になってから小人たちと一緒に生活する話だ。
「そんな子供向けの本、読むの?」
「児童書、好きなのよ。それに、名作に年齢は関係ないよ」
購入した袋ごとぎゅうっと抱きしめて歩く水元は、なんだか子供っぽい。
「ああ、いい日だなあ。ごはんは美味しかったし、探していたものは手に入ったし」
それからちょっと俺を見上げて、付け足した。
「若くて可愛い女の子じゃなくて、ごめんね?」
「いや、俺も充分楽しいから」
若くて可愛い女の子からは、ちょっと前に声をかけてもらった。
外から見ている分には楽しいけど、こんな風に充実しなかった。
水元相手じゃときめきや緊張はないけど、その分楽しい気分はダイレクトに入ってくる。
紙袋だと持ちにくいと、水元は布のトートバッグを買って本をそっちに移した。
肩に掛けようとしているので、それを止めて俺が持ってやる。
「それ以上肩凝ったら、具合が悪くなるぞ」
「休みの日はそんなでもないもーん。今度の派遣さん、結構動くし」
本って結構重いから、肩なんかで支えると負担になる。
「ま、いっか。誰かに荷物持ってもらうなんて、久しぶり」
水元は、にっと笑う。
「買い物に行って、缶詰とかミネラルウォーターとか買うじゃない。手が痺れまくり」
結婚する前、水元は親元から会社に通っていた。
離婚した後に親元に帰らなかったのは、親に申し訳なかったからだという。
「幸せに暮らす筈の娘が、あんな短期間で10kgも痩せて帰ってもねー。そうしてるうちに、機会逃しちゃって」
軽く言うけど、それについてどんなに悩んだろう。
「……大変だったな」
「そうよぅ。離婚ってすごく消耗するのよ。長谷部君もそんなことにならないようにね」
いや、結婚すらしてないけど。