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行灯の昼  作者: 蒲公英
忘れてた、かも
35/77

7

水元と電車に乗っても気詰まりにはならないし、天丼は旨かった。

昼メシだけで帰るのももったいないねって、一緒に古本の街をぶらぶら歩く。

何せ影響を受けてきた文化が一緒だから、話はどこからでも繋がる。

「あ、ちょっとちょっと待って!」

一軒の古本屋を覗き込んだ水元は、何冊かの本を抱えて出てきた。

「これこれ、子供の頃、この装丁で読んだの!」

それは俺にも見覚えのある子供向けの本で、小人を見つけた少年が、大人になってから小人たちと一緒に生活する話だ。

「そんな子供向けの本、読むの?」

「児童書、好きなのよ。それに、名作に年齢は関係ないよ」


購入した袋ごとぎゅうっと抱きしめて歩く水元は、なんだか子供っぽい。

「ああ、いい日だなあ。ごはんは美味しかったし、探していたものは手に入ったし」

それからちょっと俺を見上げて、付け足した。

「若くて可愛い女の子じゃなくて、ごめんね?」

「いや、俺も充分楽しいから」

若くて可愛い女の子からは、ちょっと前に声をかけてもらった。

外から見ている分には楽しいけど、こんな風に充実しなかった。

水元相手じゃときめきや緊張はないけど、その分楽しい気分はダイレクトに入ってくる。


紙袋だと持ちにくいと、水元は布のトートバッグを買って本をそっちに移した。

肩に掛けようとしているので、それを止めて俺が持ってやる。

「それ以上肩凝ったら、具合が悪くなるぞ」

「休みの日はそんなでもないもーん。今度の派遣さん、結構動くし」

本って結構重いから、肩なんかで支えると負担になる。

「ま、いっか。誰かに荷物持ってもらうなんて、久しぶり」

水元は、にっと笑う。

「買い物に行って、缶詰とかミネラルウォーターとか買うじゃない。手が痺れまくり」


結婚する前、水元は親元から会社に通っていた。

離婚した後に親元に帰らなかったのは、親に申し訳なかったからだという。

「幸せに暮らす筈の娘が、あんな短期間で10kgも痩せて帰ってもねー。そうしてるうちに、機会逃しちゃって」

軽く言うけど、それについてどんなに悩んだろう。

「……大変だったな」

「そうよぅ。離婚ってすごく消耗するのよ。長谷部君もそんなことにならないようにね」

いや、結婚すらしてないけど。


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