6
結果的には親子丼は、美味しいには美味しかったんだけど、俺の好みとはちょっと違った。
だけど「どうだった?」なんて嬉しそうに言う水元に、それを言うのも悪い気がして、「旨かったよ」とだけ言った。
「何?それだけ?つきあってくれないわけ?」
本気で一緒に行こうとしてたんだな、こいつ。
思わず、顔を見返す。
「お昼ご飯食べるためにだけ、ひとりで出掛けたくないんだもん。行動範囲、狭くなる一方」
なるほど納得。俺もずいぶん狭くなったもんな。
「あ、じゃあさ、神田にすっげー旨い天丼がある。しかも極安」
「天丼も好き!胡麻油?」
「そうそう。神保町の駅のすぐ近く」
「じゃあ、古本屋めぐりもすぐだね」
そんな風に、あっさりと約束は出来上がった。
気を張らずに済むのは、相手が水元だからだ。
約束したのが野口さんだったりしてみろ、前の晩から緊張するから。
ビジネス服以外で会ったことなんて、なかったな。
俺は普段からスーツじゃないから、違和感ないだろうけど。
あ、結構ワクワクしてるかも。
下田さんの時は気が重かったのに。
相手のペースがわかってて、自分のペースと合わせてくれることも知ってて、すっごい気楽。
ここのところ友達とも飲んでないし、休日はゴロゴロして、たまった洗濯すると終わっちゃうし。
たまにはいいね、こうやって出掛けるのも。
土曜日の午前の遅い時間に待ち合わせた水元は、普通にジーンズ姿だった。
予測外に女っぽかったり肌を露出してたりしたら、相手が水元でもちょっと引けちゃうかも知れないけど、これなら全然問題ない。
社内で見るときのアイロンの当たったシャツじゃなくて、ふわふわしてるトップスが、いつもより柔らかそうに見える。
「長谷部君、意外に身体緩んでないね」
俺の腹を見下ろし、坂本が言う。
それにも気をつけなくちゃいけない年代だから、同い年の水元にも、気になるポイントなのかな。