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行灯の昼  作者: 蒲公英
忘れてた、かも
33/77

5

客先との打ち合わせがあって、スーツで出勤した日。

「おや、今日はどこ?」

「水天宮。昼メシは親子丼だ」

「並ぶの?いいなあ。私、行ったことない」

水元とそんな会話をしていると、津田がのんびりと顔を出す。

「ウチ、戌の日のお参りの時に行ったー。好みが分かれるよね、あれ」

「津田君も行ったことあるんだ!悔しいっ!食べたいっ!」

笑いながらそんなことを言う水元は、ちょっと可愛らしい。

社内では責任者面してるから若手社員とは距離置いてるし、経理ってのは他の部署からは頼りにされる反面、煙たくもあるのだ。


「友達とでも行けば?」

「何人か、誘ったことはある。親子丼食べに、そっちの方まで出たくないって断られた」

まあ、確かに水天宮は戌の日のお参りってイメージで、わざわざ出て行く気にはならない。

「大体、最近みんな子育て真っ最中で、学生時代の友達は、遊んでくれない」

それについては同感で、俺の友人たちも頻繁には集まらなくなった。

「長谷部さんと行けば?両方とも、条件一緒じゃん」

津田がケロリと口を挟む。

こいつは裏も表も深読みもないから、発言にもまったく頓着しない。


「えーっと津田君。私の休日は暇ばっかりだとでも?」

俺の休日は暇ばっかりだけど、水元は何かあるんだろうか。

「あ、怒る人がいます?スミマセン!」

頭を下げる津田に、水元が膨れた顔をしてみせる。

「……悪かったよ、バツイチで。年下大歓迎だから、津田君の友達紹介して。できれば高収入で」

「そんな非人情なことはできません」

「どういう意味よ!」


休みの日に会社の人間と出歩くって発想が、そもそもなかった。

女の子たちが、買い物に行くとか旅行に行くとか騒ぐのを、不思議に聞いていた。

山口が津田の家に遊びに行ったり、津田の奥さんが野口さんと連絡を取っていたりしても、仕事の続きを家でしているような感覚でしか、見てなかった。

下田さんと出掛けたことすら、何か義務めいた感じがしていて、自分自身がどうしたいのか全然考えなかった。

「旨かったら、案内してやるよ。水元の奢りで」

他の人が普通にしていることを、してみようと思っただけだったけど。

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