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行灯の昼  作者: 蒲公英
忘れてた、かも
32/77

4

「最近、肩揉めって言わないなあ」

「あれ、そうだった?」

きょとんとした顔は、本当に気がついていなかったらしい。

「ちょっとはマシなのか?」

「んーん。鍼に行った後は、何日かいいんだけど」

どれ、と肩に指を掛ける。

「冷え性だからじゃないのか?身体動かしたら?」

「運動神経、ぶっちぎれてるもん。生姜サプリは飲んでるんだけどな……って、痛い……会社の冷房で足が冷えちゃってねえ」

「本当にババア」

「同い年じゃない。これから一花も二花も咲かせようっていう……痛いって」


「水元、彼氏いるの?」

「ああ、バツイチはもてるって話だねえ。話だけだけど。どこで見つけろって言うのよ」

水元が茶碗蒸しをスプーンで掬って口に運ぶ。

口紅がかすれて、素の唇の色が見えてる。

水元って、女だったんだな。改めてそう思った。

気を張らずに喋れるし、仕事も信頼できて、同じ年数だけ同じ場所にいる同志だけど、女なんだ。

うっかり忘れてたけど、体力は俺より格段に低くて、もしかしたら子供なんかも産むんだ。

「痛いから、もうっ!」

水元が肩を引く。無意識に水元の首を揉んでいた俺は、ぼんやりとしていた。


「長谷部君、酔った?お開きにしようか」

水元が俺の顔を覗き込む。

酔ってない、酔っちゃいないんだけどさ、なんか調子が狂う。

「ま、明日も仕事だしな」

「そうだねえ。ああ、明日でやっと金曜日かぁ」

「俺は土曜出勤だぜ」

「はいはい、お疲れ様。いいじゃない、デートの予定があるわけじゃなし。しっかり稼いで」

そうだな。気詰まりなデートは、もうない。

家でテレビ眺めてるよりは、いいか。


池袋まで一緒に出て、閉まるドアに向かって手を振る。

去っていく窓越しに見た水元は、俺が思っていたよりも、頼りなさげに見えた。

離婚した後も、水元は気丈に仕事を続けていた。

姓を戻した時、理由を聞かれることも多かっただろう。

その度に、傷ついたことを思い出しただろうか。

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