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行灯の昼  作者: 蒲公英
忘れてた、かも
31/77

3

水元と帰り時間が合ったのは、数日後だ。

「暑いねえ。ビール、ちょっともらおうかな」

「飲めないじゃないか」

「だから、続きは長谷部君が飲んで」

普段からよく使う居酒屋のカウンターで、水元はメニューを広げた。

「ほっけと御新香、茶碗蒸し」

「メシが欲しくなる組み合わせだな」

「ひとりだと、魚って外でしか食べないよね。ワンルームだから、換気扇小さいし」

そう言えばそうかな。俺も自分のアパートで、魚は焼かない。


考えてみたら、水元とふたりだけって初めてかも知れない。

男同士みたいな気楽さで誘ったけど、並んで座っても顔の高さが違う。

「今度の派遣さん、どんな感じ?」

「ああ、常識的には良い子だよ。ちゃんとメモもとるし」

乾杯、とジョッキを合わせる。

「何に乾杯?」

「長谷部君のスキャンダルの終焉に」

スキャンダルだったのか……

「やだ。がっかりした顔しないでよ、冗談なんだから」

慌ててとりなされて、却って申し訳ない。

ここで気の利いた言葉が返せれば良いのに。


「下田さんができないのは確かだったけど、私も幾分、私情混じっちゃったかな」

水元がらしくない発言をする。

「元ダンナの浮気相手が、あのタイプだったのよね。可愛い顔して無邪気装って、自分の感情のゴリ押し。最終的には妊娠までされたら、もう戦えないじゃない」

ビールをウーロン茶に変えた水元は、一気に吐き出した。

「相手がどんなタイプだったか、よく知ってるな」

「私を通して知り合ったんだもん。大学の後輩よ。もう二度とOB会なんて、行かないけどね」

離婚の原因は相手の浮気だったのか。

「社内の人に、こんなこと言ったことなかったんだけどなぁ。長谷部君相手だと、気が緩むな」


水元は誰とでも卒なく喋るし、仕事に緩みがないので、社内での信頼度は高い。

子供が居ないから残業も頼みやすいし、経理の上の方もそれに寄りかかってる感じはある。

「ところで、生田さんのとこ、三人目だって?」

話を変えるのは、それ以上話したくないってことだろ。

「そうそう、もうじきじゃなかったっけ。一番上が幼稚園に入ったばっかりなのに」

「奥さんの実家で、二世帯住宅建ててくれたって言ってたね。私の実家も、妹が入るみたい」

家を建てるとか親の老後とか、そんな年回りなのだ。

ぼんやりしているうちに、本当にジジイになっていく。

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