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翌日元気に出社した水元を見て、ちょっと安心した。
あんなに疲れるまで、張り詰めなくてもいいのに。
でもそれが水元の水元たる部分だし、だからこその信頼ってのも大きい。
「おはよ、長谷部君。昨日はありがとね」
「おう、よく寝たか?」
「晩御飯も食べずに寝たわ。おかげで、朝から空腹で目が覚めた」
笑いながら通路を歩いていく水元を、ちょっと振り返って見た。
腰、細かったよなあ。痩せてるわけでもないのに。
男ばっかりと喋る職場は、色気はなくとも気楽だ。
作業着と安全靴は、しゃれっ気なんて出したくても出ないし、ヘルメットを被るわけだから、髪も短きゃいい。
余所の部署の若いヤツなんかは、帰社するとせっせと洗面所でワックスを使っていたりするけど、俺は帰って寝るだけなんだから、そんな必要もない。
「長谷部さん、設備施工部、忙しいですか?」
萩原が顔を見せる。
「ああ、津田から連絡来てたヤツ、今回はちょっと無理だわ。そっちが使ってる工事業者と違うところ、いくつか紹介するから、あたってみて」
「長谷部さんが無理って言う時は、どうにも調整がつかない時ですもんね」
萩原にいくつかの社名と電話番号をメモして渡す。
「俺には相談しないのか、萩原?」
今日は機嫌の良い生田さんが、コーヒーを啜りながら言う。
「生田さんなんて、大文句言って説教した挙句に『ダメ』じゃないですか」
「説教は俺のライフ・ワークだ。つきあえ」
なんであんなにぽんぽんと、軽口に持ち込むことができるんだろう。
言葉だけ聞いてると、とんでもないやりとりでも、本人たちは気軽で楽しげだ。
別にクソ真面目なつもりはないけど、言葉尻に怯んでしまう俺に、あのテンポの会話はできない。
後ろから肩を叩かれ、振り向くと水元と新人さんが立っていた。
「今月の経費、出たよ」
財布が薄い時期に差しかかっているので、どうもどうもと受け取ってから、思い出した。
「あ、水元に昼メシ奢んなくちゃ」
「なんで?」
あれ、なんでだっけ?ま、いいや。
「いや、前にそんなことを言った気がする」
「光栄だけど、お弁当持参なの。夜にしない?」
「高価いじゃん」
「お酒飲まないから、そんなでもないでしょ。はい、決定」
答えそこねると、水元は新人さんを連れて去って行った。