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行灯の昼  作者: 蒲公英
忘れてた、かも
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1

派遣社員の入れ替えで、経理がまたバタバタし始めた。

今度こそと思うのか、水元は常に気を張っているみたいで、帰る頃にはぐったり疲れた顔になってる。

ただ、俺に肩を差し出すことがなくなった。

無意識だろうけど、首をぐるぐる回しながら給湯室でコーヒーを淹れていたりする。

こっちから「肩を揉ませろ」なんて言うわけにもいかず、ひどいんだろうなと予測する程度だけど。

冷房に弱くて、夏になると社内で薄い上着を引っ掛ける水元の手足は、多分冷たい。


「胃が気持ち悪いから、帰る。お先に」

そう言って水元が会社を出て行ったのは、6時過ぎだった。

俺が会社を出たのは、その30分後だ。

駅のベンチに座った水元を見た。

目を閉じて、眉間に皺を寄せている。

「おい、どうした?具合悪いのか?」

そう声を掛けると、ゆっくり目を開いた。


「なんかね、上手く立っていられないの。混んだ電車だと自信ないから、ちょっと空くの待ってる」

「気持ち悪いのか?」

「吐きそうなんじゃなくて、なんかこう、目眩みたいなの。歩いている分には、そうでもないんだけど、直立してるとまわる」

顔色は悪くないけど、辛そうだ。

「水元って家、どっちだっけ」

「氷川台。だから、赤坂見附で乗り換えるんだけど」

方面は、俺と一緒だ。俺は途中で路線が変わるけど、ターミナル駅で空き座席は見つかるだろう。


「とりあえず、池袋まで一緒に乗ってこう。掴まってていいから」

次に来た電車に一緒に乗り込み、地下鉄の階段を一歩一歩確かめるように乗り換えた。

歩いている分にはそうでもないなんて言ったけど、結構ふらふらで、何度か歩調を緩めた。

下田さんみたいに、腕にぎゅうっとしがみつくんじゃなくて、肘に手を添えている程度だからかも。


ラッシュアワーじゃないけど、つり革は一杯程度の電車の中で、水元は体重を預ける場所がない。

「ごめん、ちょっと寄りかかっていい?」

「疲れてるんだろう。いいよ、体重かけてて」

腕にでも掴まるつもりなんだと思っていたから、肩に額が寄せられて、慌てた。

「ごめん。池袋まで、失礼」

そっち側の手をどうしたものかとあたふたして、結局水元の腰を支える。

電車の中の恋人たちみたいな格好だけど、そうじゃないと体勢が安定しない。


肩が薄いのは知ってたけど、腰も細いな。

ああそうか。オトコマエだけど、こいつも女だったか。

気が抜けない業務が続けざまで、気を抜く暇もなかったんだろう。

ターミナル駅で空いた座席に水元を座らせ、電車のドアの外側から手を振った。


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