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行灯の昼  作者: 蒲公英
止しとけって
28/77

8

翌日出社して通路で下田さんに会うと、思いっきり顔を背けられた。

「フンッ!」なんて言葉が聞こえそうだ。

ついでに、何人かが遠巻きに自分を窺っているのがわかった。

情報、本当に早いな。

どんな風に伝わっているのかは、想像に難くない。

いいよ、否定はできないからね。

もともと喋るのは得意じゃないし、アピールできるほどの何かを持ってるわけじゃない。

だけど、こんなことで注目されたくはないなあ。


現場に出ちゃえば、会社の中のことは関係ない。

別に敵を作ったわけでもないし、下田さんが派遣を終えれば、じきに忘れられてしまうようなことだ。

女の子に声を掛けられたら、もう少し慎重にしようとは思うけど。

まあ、一生に一度の出来事だったかも知れないとは思う。

「長谷部、惜しいことしたな。あんな若い女、二度と捕まらないぞ」

生田さんまで笑いながら言う。

どこまで広がっているのか、恐ろしいものはある。

「俺の嫁さんと交換しろって言われたら、交換してやるのによ」

「いや、若すぎて俺には合わないっていうか」

「長谷部は気迫が足んねえんだ」

気迫ねえ。それで年寄り臭いと言われるんだろうか。


女の子たちとはますます距離が離れ、事情を知らずに噂だけを知った上司からは、早く仲人をさせろと言われ、どっち向いていいやら。

弁解をしたくないわけじゃなくて、何を言っていいものやら、見当がつかないだけだ。

俺は確かに悪かった。けど、そんなに非人道的なことをした覚えはない。

「若い女の子をからかって楽しんだ」わけじゃないんだ。

そんな器量はないし、ガラでもないじゃないか。


「ま、言いたいだけ言わせちゃえばいいじゃないですか。どうせ居なくなっちゃうんだから」

山口がクールに言う。

焼き鳥を横咥えしても、サマになる男だ。

「まあね。女の子の評判、落としちゃ気の毒だし」

くっくっと笑いながら、山口は俺の背中を叩いた。

「長谷部さん、人が好過ぎ。わかってる人には、彼女の評判は地底だし。野口なんて、家で大悪態」

「おまえ、自分の奥さんを、家でも旧姓で呼んでんの?」

「そんなわけ、ないじゃないですか。長谷部さんって素直で、俺、大好き」

山口に好かれても、大して嬉しくはない。


こうして、「おっさんとお兄さんの中間あたり」に囲まれる日々は戻ってきた。

女の子は可愛いし良い匂いだし、俺も一生独りで居たくはない。

だけど、俺を気に入ってくれれば……なんて考えは、捨てた方がいいらしい。

合わない相手を大切になんて、できっこないのだ。


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