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行灯の昼  作者: 蒲公英
止しとけって
27/77

7

「なんで?彼女いないって言ったじゃないですか。先週の土曜日も、また来週って」

「俺は、そうは言ってない。否定しなかったのは悪かった、謝る」

「信っじらんないっ!」

下田さんは思いっきり顔を歪めた。

「じゃあ、なんで二週もつきあったの?長谷部さんも私のことを好きだと思ってたのに」

違和感、ありあり。下田さんが俺を好きだったことも、多分ないと思うぞ。


「本当にごめん。だけど下田さんは、俺と合わないと思う。見えてるものが、違いすぎる」

「その気もないのに、私とつきあったんですか」

いや、つきあった気はまったくないんだけど。

良かったよ、仕事が終わった時間に捕まえて。

これが会社の通路なら、明日は仕事に行けないんじゃないかと思う。

「長谷部さんって、はっきりしない人なんですね」

黙っていたら、下田さんが引導を渡してくれた。

これに感謝して、良いのだろうか?


残った仕事を片付けに、会社に戻る足は重かった。

半分くらいは、俺が悪い。

引き摺られたことを言い訳に、あわよくばってスケベ心を満たそうとしたことは否めない。

下田さんに好意を抱けなくとも、彼女にも感情やプライドはあるのだ。

他人のせいにしたのは、俺も同じだ。

引導を渡させたのも、俺だ。

もうちょっと前に、こっちから引導を渡してやりさえすれば、無駄に腹を立てさせることはなかったのに。


「長谷部さん、メシ行きません?」

残業を終えた津田が、ひょっこり顔を出す。

「今日、瑞穂とぎょうくん、保育園のイベントで外食なんです」

デスクの上を片付けて、パソコンの電源を落とした。

家に帰っても落ち込むばっかりだし、津田みたいにストレートな男は、話すのが楽だ。

俺より10センチばかり長身の津田は、猫背気味に居酒屋のカウンターに座った。

微笑ましいマイホーム・パパの津田が、実は結構オトナだっていうのは、ちゃんと喋らないとわからない。

逆に、ちゃんとコミュニケーションしてるからこそ、腹を割った話が怖くないんだ。


そう考えると、下田さんには本当に申し訳ないことをしたんだと思う。

だけど、これから先はもう、ないんだ。

そう思ったことで気が軽くなったのも確かで、やけに調子良く飲んだ気がする。

「珍しいですね、長谷部さんが酔っ払うの」

鈍った耳に、津田の声が聞こえた。

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