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行灯の昼  作者: 蒲公英
止しとけって
26/77

6

「肩、揉んでやろうか?」

半分以上灯りの消えたフロアを、水元がボールペンの尻で肩を押しながら、歩く。

俺の顔を見上げた水元は、視線を固定して、断った。

「ありがとう。でも、要らない。彼女が不愉快でしょ?」

彼女って、下田さんのことか?

まだつきあってるって関係でもないし、俺にその気はない。

「長谷部君だって、自分の彼女が他の男の肩揉んでたら、イヤじゃない?想像してごらん、山口君の肩揉んでる下田さん」


言い返す前に、頭に思い浮かべてみる。

……野口さんから山口を奪うことは、不可能だろう。

あれ?労ってるとか仲が良いとかの連想じゃなくて、そっち?

下田さんのイメージ自体が、「他人に気遣いをすることの代償を欲しがる人」なんだな。

そうか、はじめに声をかけてきた時も、糸川目当てだと思ったな。

その時から全然乗り気じゃなかったのに、あの顔と押し付けられた胸に浮かれてたんだ。


「俺、下田さんとつきあってるつもりは、全然ないんだけど」

「またまたぁ。毎週デートして、帰り時間の心配までしてやって」

情報ダダ漏れ?ってか、自分の都合のいいようにしか解釈してない!

「ごめんね。仕事、引き離しちゃって。だけど私も限界だったの」

くるりと踵を返した水元の肩を、思わず掴んだ。

「違うんだって!」


もう、限界だ。思いの外早い限界だけど、我慢する必要はないんだ。

可愛いけど、悪気はないけど、素直だけど、好意を抱いていない俺には、美点より欠点が先に立つ。

はっきりしなかった俺が悪い。

ひとまわりも下の、思い込みの激しい社会経験の少ない女の子。

大人になるまで待ってやる力も、導いてやる力も、俺にはない。

わかってるのに、自分でずるずる引き延ばしてた。


「しみじみと、情けないんだけどさ」

「長谷部君が情けないのは、知ってるよ」

水元は面白そうに笑って、話を聞く姿勢になった。

気を張らないで話せる女は、オトコマエに俺の話を引き出し、「あんたが悪い」と結論付けた。

「手、出さなくて良かったね。一方的に被害者面されるとこだわ」

本当にその通りだ。

他人に言葉にしてみせて、やっと決意が固くなる。

「今度は引っ張られなくて済みそう。感謝代わりに、何か奢る」

酒が飲めない水元に、一杯奢るってわけにもいかないから、ランチくらいかな。


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