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週半ばに派遣会社に呼び出された下田さんから連絡が来たのは、そんなに早い時間じゃなかった。
『今月で、エア・トラッドの契約、おしまいだそうです』
「チェンジしたいって言ってたもんね」
『水元さんが、仕組んだんです。私のこと、きらいですから』
待て。どこからそんな発想が出る。
『長谷部さんが私とつきあってるから、気に入らないんです』
待て待て。俺は下田さんのことは知らないが、水元のことはよく知ってる。
「気のせいじゃない?公私混同する人間じゃないよ」
頭を下げて歩いていた水元は、下田さんのせいだとは言ってなかった。
それに、派遣先チェンジするって言ってたのは、下田さんじゃないか。
『水元さん、ちょっとのミスで課長に言いつけるし、いつも後ろで監視してて』
「報告義務があるし、責任者だから全部見てないと」
『ほら、長谷部さんには良い顔しか見せてない。私にだけ冷たいんだもん』
機嫌を取るような真似はしなくても、水元なりに気を遣っていた筈だ。
『私には何も言わないで、派遣会社に直接交代の申し出するなんて』
「契約の関係があるから、直接は言えないんじゃない?」
『だって、それとなく言ってくれたって!』
仕事ができないから来ないでください、なんて、本人に向かって言えないだろう。
『私だって一生懸命仕事して……』
泣くのか、おい。何か酔ってないか。
「あのさ、なんで契約切られるのか、じっくり考えた?」
『水元さんのイヤガラセに、決まってるじゃないですか』
決まってるのか?ってか、自分自身の反省は、ないのか?
なんだかもう、可愛いとか胸がとか、そういう問題じゃない。
なんていうのか、この子、気持ち悪い。
全部自分のせいじゃなくて、一生懸命って言葉の使い方が間違ってる。
自分は辞めたいって言ったのに、他人からのそうしろって言われて、自分の非を全力で否定してる。
「水元はね、自分の指導力不足って、他の部署に頭下げてたよ」
下田さんが返事をする前に、続ける。
「今まで、どんな派遣社員が来てもなかったトラブルが頻発してるんだ。意味、わかる?」
『だって、教えてもらってなくって!』
「自分の首が絞まるのに、指導しないわけ、ないでしょ。ちょっと冷静になりなよ」
我ながら、冷たい声だ。
下田さんの声を、それ以上聞くのはイヤだった。
水元がどんなに大変な思いをしているのか想像もできないくせに、自分に都合のいい解釈で、もっともらしく話を作ってる。
『長谷部さんも、私のこと責めるんですね』
「責めるわけじゃなくて、時々は反省した方が……」
『水元さんに嫌われてるのは、私のせいじゃありません』
だめだ、こりゃ。
どうにかこうにか電話を切って、ついでに電源も切った。
矯正してやろうって気にならないのは、俺が下田さんをどうでもいいと思ってるってことなんだな。
呆れただけで、本人に対しての感情なんてない。
はじめからそうだったのに引き摺られた俺が、一番情けない。