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行灯の昼  作者: 蒲公英
止しとけって
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5

週半ばに派遣会社に呼び出された下田さんから連絡が来たのは、そんなに早い時間じゃなかった。

『今月で、エア・トラッドの契約、おしまいだそうです』

「チェンジしたいって言ってたもんね」

『水元さんが、仕組んだんです。私のこと、きらいですから』

待て。どこからそんな発想が出る。

『長谷部さんが私とつきあってるから、気に入らないんです』

待て待て。俺は下田さんのことは知らないが、水元のことはよく知ってる。

「気のせいじゃない?公私混同する人間じゃないよ」

頭を下げて歩いていた水元は、下田さんのせいだとは言ってなかった。

それに、派遣先チェンジするって言ってたのは、下田さんじゃないか。


『水元さん、ちょっとのミスで課長に言いつけるし、いつも後ろで監視してて』

「報告義務があるし、責任者だから全部見てないと」

『ほら、長谷部さんには良い顔しか見せてない。私にだけ冷たいんだもん』

機嫌を取るような真似はしなくても、水元なりに気を遣っていた筈だ。

『私には何も言わないで、派遣会社に直接交代の申し出するなんて』

「契約の関係があるから、直接は言えないんじゃない?」

『だって、それとなく言ってくれたって!』

仕事ができないから来ないでください、なんて、本人に向かって言えないだろう。


『私だって一生懸命仕事して……』

泣くのか、おい。何か酔ってないか。

「あのさ、なんで契約切られるのか、じっくり考えた?」

『水元さんのイヤガラセに、決まってるじゃないですか』

決まってるのか?ってか、自分自身の反省は、ないのか?

なんだかもう、可愛いとか胸がとか、そういう問題じゃない。

なんていうのか、この子、気持ち悪い。

全部自分のせいじゃなくて、一生懸命って言葉の使い方が間違ってる。

自分は辞めたいって言ったのに、他人からのそうしろって言われて、自分の非を全力で否定してる。


「水元はね、自分の指導力不足って、他の部署に頭下げてたよ」

下田さんが返事をする前に、続ける。

「今まで、どんな派遣社員が来てもなかったトラブルが頻発してるんだ。意味、わかる?」

『だって、教えてもらってなくって!』

「自分の首が絞まるのに、指導しないわけ、ないでしょ。ちょっと冷静になりなよ」

我ながら、冷たい声だ。

下田さんの声を、それ以上聞くのはイヤだった。

水元がどんなに大変な思いをしているのか想像もできないくせに、自分に都合のいい解釈で、もっともらしく話を作ってる。


『長谷部さんも、私のこと責めるんですね』

「責めるわけじゃなくて、時々は反省した方が……」

『水元さんに嫌われてるのは、私のせいじゃありません』

だめだ、こりゃ。

どうにかこうにか電話を切って、ついでに電源も切った。

矯正してやろうって気にならないのは、俺が下田さんをどうでもいいと思ってるってことなんだな。

呆れただけで、本人に対しての感情なんてない。

はじめからそうだったのに引き摺られた俺が、一番情けない。

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