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「えええっ!今日も帰っちゃうんですかぁ?」
昼過ぎに待ち合わせて映画を見て、更に夕食も済んだ土曜日の晩。
「明日も休みなんだし、もうちょっと遊びましょうよ」
俺の腕にぎゅうっと巻きつく細い腕。
だからね、そうすると、胸がそのまま押し付けられるんです。
「遊ぶって言っても、俺は夜の遊び方なんて」
「お酒飲みましょう?ね、もうちょっと」
止しとけよ、そう頭の中で、自分の声がする。
こんな状態で女の子に誘われたら、のっぴきならないことになるぞ。
その気なんて、全然ないくせに。
腕に感じる胸は、なんだかそのままベッドに直行許可みたいで、ヘタな妄想をしそうだ。
このまま酔わせてやっちゃおうかな、なんて不埒なことを考える程度には。
たとえば萩原あたりなら、遠慮せずにいただいちゃうんだろう。
ダメだって。俺はそんなに器用じゃない。
「下田さん」
今だ、今なら次はないって言える。
「はいっ!」
お預けを解かれたワンコロみたいな顔で、良い子のお返事をする下田さん。
「……送って行けないから、遅くなったら危険でしょ?」
誰か、俺の阿呆を怒鳴ってくれ!
「私の家、大通り沿いですから、そんなに怖くないんですよ」
「女の子が夜中にひとりで歩かない方がいい」
うーわっ!分別&オヤジ臭い、良い人発言だ。どの口がこんなこと言ってる!
「わかりました。来週にします」
口を尖らせた下田さんが頷く。
待て待て待てっ!誰が来週約束した?
「月曜にはまた会えるんですもんね」
いや、普通に仕事に行くだけなんだけど。俺は、阿呆だ。
「来月、お誕生日でしょう?どこかに行きます?」
総務!総務!個人情報は!
「とりあえず、おとなしく帰ります。おやすみなさい」
地下鉄の入口に消える下田さんを、呆然と見送る。
なんだかもう、話が「つきあってる人たち」だ。
手を出そうが出すまいが、そんなことは関係ないらしい。