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どう否定しようかと考えているうちに、下田さんの愚痴は発展していく。
「いつも忙しそうだから、わかんない処理を聞くのも悪いかなーと思って、こうだろうって処理すると、違うって怒られるし」
「わからない処理の質問しても、怒られないでしょう」
「だって、先月教えたでしょ、とか言われて」
ああ、頭を抱えた水元が浮かぶ。経理の処理に曖昧が許されないのは、俺だって知ってる。
「下田さん、専門職派遣だよね?」
「そうです。ビジネススクールで、経理の勉強しましたから」
そうか、条件は合ってるって言ってたな。
派遣先が交代を希望していて、派遣社員がそうしたいと言えば、それでOKなんじゃないかと思うんだけど、契約の中には色々あるのかも知れないので、俺には何も言えない。
「派遣先変わっても、長谷部さんには会いに来ますから」
「ええっと」
「今週末、どうします?」
「えええっと」
なんだか考えが纏まらないうちに、週末の約束に巻き込まれる。
二度目はない、どころの話じゃない。
「下田さんくらいの子から見て、俺ってどんな風なのかなあ」
俺からすれば当然の疑問なのに、下田さんはけらけらと笑った。
「頼り甲斐があって、落ち着いてて。オトナだなーって感じ」
すっげー誤解。
俺が落ち着いて見えるのは、俺の代わりに誰かが主張してくれるからだし、中も外も十年前と大して変わってない。
「俺ね、昔っから年寄り臭いって言われてたんだけど」
「昔からオトナっぽかったんですか、いいなあ。私なんて落ち着きなくってぇ」
物は言いよう。
勝手に喋って勝手に機嫌を直して、下田さんが帰っていく。
悪気はないし、可愛いんだよな。
だからつい、週末の約束をしちゃったのだ。
にもかかわらず、相変わらず下田さん本人への関心なんて、全然抱いてない。
これでも彼女は、満足なんだろうか。