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翌日、各部署に経理課長から詫びが入り、ぐずぐずと文句を言う営業に、水元が頭を下げて回った。
落ち込んでるかなと思った下田さんは、コトの重大さがわからないらしく、普通の顔でロッカールームに出入りしている。
派遣社員交代の話を派遣会社から聞いたら、多分驚くんだろうなあ。
そんな気がする、木曜日の晩。
「長谷部さん、今帰りですか?」
ロビーで後ろから声を掛けられ、驚いて振り向くと、下田さんだった。
「あれ?月末以外で派遣さんが残業?」
「怒られてたんです。勘違いしちゃってて、誰もチェックしてくれないし」
「……派遣、三ヶ月目だよね。先月にやったこと、メモにしてないの?」
「してたんですけど、マニュアルも作ってくれてないし」
マニュアルにするほど大層な業務じゃなければ、口頭の指示で済ませているんだと思う。
「……大変だったね」
本当に大変だったのは、経理部の他の面々だったと思うけど。
「だから、しょげてるんです。帰り間際に長谷部さんに会えて良かった」
にっこり笑う下田さんに違和感を感じながら、地下鉄の入口横のコーヒーチェーンに誘導される。
「ちょっとだけ、愚痴聞いてもらいたいなー、なんて」
半泣きの経理の女の子と、鉄板を仕込んでいるような水元の肩が、ちらっと頭の隅を掠めた。
「私、派遣先チェンジしてもらおうと思ってるんですよ。正社員の人たちは何も教えてくれないし、同じ派遣の筈なのに、私じゃない方の人とばっかりランチとか行くし」
もうひとりの派遣さんは、今年で三年目だから、それだけ気心も知れてるんじゃないかと思う。
「水元さんなんて、私が長谷部さんとデートしたからって、冷たいんですよ」
「俺?」
思わず、声が出た。
「水元さんって長谷部さんのこと、好きじゃないですか」
「それは、違うと思うけど。そりゃ同期だから、他の人より話すことは多いよ?でも」
突拍子もない妄想だ。俺と水元は、そんな間柄じゃない。
「一回結婚してるんだから、遠慮して欲しいんですけど」
なんだ、そりゃ?