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行灯の昼  作者: 蒲公英
いつもの風景
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2

「長谷部さん。設備施工部、今忙しいですか」

「また小商いの工事とか言わないよね?」

萩原の俺への問いに、隣の席が、即答する。

俺の所属する部署は、基本的にビル物件の空調設備の設計施工を行うので、店舗や住宅は扱わない。

「物件のエリアがダブってて、エリア外の工事店にやらせると、後でメンテ契約の時、揉める惧れが……」

その物件に関しては、開発営業部の津田から、先手回しのメールをもらっていた。

「そこを揉めないようにするのが、営業の手腕だろ」

「それが難しい工事店だから、頭下げに来たんですよう」


「山口に相談しろよ。得意だったろ、煙に巻くの」

「他部署だし、現場から離れちゃってるし」

俺より何年か先に入社した生田さんは、とにかく仕事を増やしたくないタイプの人だ。

工事店に仕事をまわすより、元請けが直接工事した方が利益率が高いのは知っている癖に、少し手が空いていても、利益が大きい仕事だけをメインに、小商いをしたがらない。

「いいよ、個人商店だろ?予算出てんのか」

気の毒な萩原を解放してやりたくて、生田さんの言葉を遮った。

多分部内で調整しても、うまい業者が探せなくて、こっちに来たのだ。

物件は今、混んでいない。予定外の工事が一日くらい入っても、俺的にはまったく問題ないタイミングだった。


「長谷部、安請け合いすんなよ。まず申請書あげてもらわないと」

「口頭で答えてから申請書なんて、よくある流れじゃないですか。萩原、とりあえず図面送って」

嬉しそうに自分のデスクに向かう萩原の後姿に、生田さんは舌打ちした。

「他部署にどうにかしてもらおうってのが、気に食わねえんだよ。長谷部は甘いな」

「こっちにも利益は落ちるじゃないですか。それに萩原、最近仕事にノリはじめたとこだし」

「本人の好不調で、請けたり請けなかったりすんのか、お前は」

イヤガラセのようにマウスをポンポン叩いてみせる生田さんに、とりあえず頭を下げておく。

萩原は今年に入ってから、仕事への姿勢が変わってきてるし、そういうヤツはこっちも応援したいんだけど。


「長谷部さん。萩原の無理を聞いてくれたみたいで、ありがとうございました」

一人前の中堅営業社員になった津田が、パーテーションの上から顔を出した。

今でこそ萩原の指導担当だけれど、こいつもいろいろやらかしたクチだから、必ず後輩のフォローに入る。

仕事ってのは失敗してナンボだから、実はやらかしたヤツほど成長が大きい。

「津田ぁ。こっちの仕事増やすように指示したのは、おまえか」

生田さんが、文句言う気満々で噛み付く。

「大丈夫ですよ。俺が行きますから、生田さんには手間取らせません」


俺のとりなしがますます気に食わなかったのか、生田さんは自分のデスクの前に、どん、と座る。

「長谷部みたいなお人好しに、直接話を持ってったら、忙しくても請けるのわかってんだろうが。ちゃんと後輩の指導しろよ」

「いや、俺も仕事が詰まってたら断りますって。大丈夫だ。行っていいよ、津田」

手を合わせる津田に合図して、場を下がらせる。

荒れ模様の生田さんの説教を聞くのは、俺だけで充分だ。



「は・せ・べ・く・ん」

給湯室でカップ麺に湯を入れていると、後ろから水元の声がした。

「今日も残業?頑張るねえ」

「いや、これ食ったら帰るけど。家に帰っても誰も居ないし、腹減ったしな」

「生田さんに、またごちゃごちゃ言われてたね」

「仕方ないね。考え方も違うし、俺はやっぱり甘いから」

水元はくすっと笑った。

「だからみんな、長谷部君を頼りにするんだよね。人が好いのは長所だよ。じゃあ、お疲れ様ー」

給湯室から洗面所に向かった水元は、化粧でも直して帰るんだろうか。

頼りにされてるのと甘く見られてるのは、違うぞ。

本当は生田さんに言い返したいことは、山ほどあったんだ。

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