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落ち着いてるわけじゃない、反応が遅いんだ。
何故反応が遅いのかというと、興味の範囲が違いすぎて、ついていけない話を頭の中で噛み砕こうとしてるから。
何度も聞き返して、気分良く喋っているのを遮りたくなくて、曖昧に頷いているうちに、話が変わっていく。
下田さんは終始にこにこしていて、それは可愛らしいんだけど。
結局、何のことはない普段の続きで、やけに疲れが残っただけだった。
社内で「別に好きじゃないけど、一回お願いします」なんて態度をとれるわけじゃないし、俺に対する下田さんの誤解が深まっただけ。
「また、お喋りしてくださいね」
そう言って地下鉄の通路に消えた下田さんの笑顔を思い出し、溜息をついた。
嬉しくないわけじゃないんだ。
こっちからも好意を抱いているのなら、願ったり叶ったりなんだけど、どうもピンと来ない相手なんだよなあ。
俺だって男だから、可愛い女の子は好きだ。
そっちの件に関してだけなら(そっちってあっちだ)、迷わずにおつきあいしたい。
でも、そういうわけに行かないだろ?
翌日の土曜日は思いっきり寝坊して、洗濯だけで終わった。
その翌日も、テレビ見てネットサーフィンしてたら、終わってしまった。
こんな生活が続くんなら、好意を持ってくれる女の子と、とっととどうにかなってしまえ、と自分の声が聞こえる。
もう十年若ければ、迷わずにそうしていたろう。
今の俺には、この先が透けて見えてしまう。
俺に失望して去られるか、食い違いで破綻を来たすか。
結局、可愛い女の子に好意を示されて、喜んでいるだけなのだ。
俺は下田さんの中身に興味を抱いたことはないし、俺自身を見てもらいたいと思ったこともない。
だから、これからしなくちゃならないことは、下田さんとは上手くいかないと思うと、きっぱり伝えること。
そのタイミングを計るのは、俺自身なんだけど。
……苦手だ、それ。
彼女が目を覚ましてくれるの、待っていたいんだけどなあ。
その間にあわよくばってのは、スケベ心でしかない。
そうなってしまっても彼女自信に興味を抱けなかったら、傷つくのは俺の方じゃない。