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「方向、違わない?」
「バッグ持ってきたもん。長谷部さんが終わるまで、待ってるつもりだったから」
まだ途中なら、合流した方がマシって流れになってるけど。
「どうせ帰っちゃうつもりだったんでしょう。私と飲むの、イヤですか?」
腕には胸が押し付けられたままで、なんだか犯罪チックな気分だ。
「イヤってわけじゃないんだけどね。苦手なんだ、人間が大勢で騒いでるの」
「じゃあ大勢じゃなくて、私だけなら?」
腕にしがみついたままで、下田さんは言った。
だから、胸が当たるんだってば……って、ええっ?
「酔ってるんでしょう?オジサンをからかうのは止めて、みんなのところに戻ろうよ」
言葉だけだと冷静だけど、実はかなりテンパってる状態だ。
こんなにストレートに「気がある」と態度に出されたことはなくて、しかも、よくわかんない子から。
「やです。言ってることの意味がわからないほど、酔ってません」
だから、胸がね、さっきからずっと腕の中ほどにあるわけです、はい。
これを言っても良いものか。
「長谷部さんと、もっと仲良くしたいんです」
「仲は、悪くはない、と、思うんだけど」
ひとまわり下に、しどろもどろだ。
「水元さんより、仲良くなりたいんです」
「あれとは同期だし、別に特別何かあるわけじゃないし」
何イイワケ口調になってんだ、別に疚しいことなんて何もないぞ。
「彼女いないって言いましたよね。私、立候補します」
スケベ心が湧いたのは、否定できない。
この会話は腕に胸を押し付けられた状態で交わされたものだし、ひとりで居るのもいい加減飽きた。
俺を誤解しててもなんでも、俺に向かって好意があると言っているのだ。
ちょっと良い気分になっちゃっても、無理ないだろう?
すぐに色よい返事ができるわけじゃないけど、下田さんは顔にも身体にも不足はない。
「前向きに、検討しましょう」
「絶対ですよ!」
ぴょんぴょんと小躍りする下田さんの胸が、腕をこする。
うん、ルックスは悪くないよな。