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行灯の昼  作者: 蒲公英
外からの風
12/77

6

……楽しそう?普通だぞ。

「そんなことはないと思うんだけど」

「ううん、楽しそう。私も長谷部さんと楽しくお喋りしたい」

ひとりくらい喋る相手が少なくたって、下田さんは不自由しないだろうに。

「長谷部さんって飲み会にもあんまり来ないし、仲のいい糸川さんとなら、一緒に来てくれるかなあと思ったのに」

糸川とは別に特別仲がいいわけじゃなくて、仕事絡みで教えることが重なってただけだ。

会社の通路で立ち話ってのも、なんかちょっとヘンな感じ。

しかも、特別な話題はないのだ。


下田さんは帰るところらしく、化粧を綺麗にしてバッグを抱えてる。

俺じゃ絶対歩けそうもない、華奢な踵の靴を履いて、これじゃ電車は大変だろうなと、妙なところに感心した。

「ま、お疲れ様。また明日」

とりあえず場を離れようと、帰りの挨拶をする。

「お先に失礼しまーす。残業、頑張ってくださーい」

うーむ。残業、別に頑張りたくはありません。


席に戻ったら、また生田さんが怒っていた。

「この見積、継ぎ手が断熱の価格じゃねえ!誰だ、これ入力したの!」

女の子に頼んだだけで、まだチェックもしてない。

「おまえの物件だろ?まだ提出してねえよな?俺が気がつかなきゃ、そのまま提出してたろ」

そんな間抜けじゃないつもりだけど、抜けがないとも言い切れないので、素直に受け取っておく。

生田さんから見れば、設備施工部で唯一年下の俺は、多分いまだに指導対象なのだ。


見積書を見直して、設計をもう一度チェックし終えると、八時になっていた。

「お疲れ様ー」

パーテーションから水元が顔を出し、残っている面子にクッキーだかなんだかの缶を差し出した。

「昼間の戴き物。女の子だけまわしたんだけど、ちょっと残ってるから、残業チームで食べませんか?」

「お、水元さん、頑張るねえ。経理も忙しいの?」

課長の声掛けに、水元が答える。

「派遣さんばっかりだと、チェック業務に結構追われるんですよ。一般職でいいから、正社員入れてくれないかなあ」

派遣社員には決裁権が与えられないので、判断は全部正社員の仕事になる。

現在の経理部は、管理職の他に、水元の下に一般職の女の子がひとりと、派遣社員ふたり。

「前年度は、見るだけで済んでたんですけどー」

つまり、訂正があるってことだな。

そして、前年度から変化したことといえば、派遣社員が萩原の彼女から、下田さんになったってこと。


俺に内勤の仕事はわかんないけど、間接部門なりのドタバタはあるんだろうな。

「毎日綺麗な格好して座って、給湯室でさぼってばっかり」

少なくとも、そう揶揄されるようなバカOLは、そうそう見当たらない。

「さて、もうひとふんばり」

そう言いながらパーテーションから出て行く水元は、左手で自分の右肩を揉み解していた

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