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水元が戻っても、下田さんは移動せずに俺の横に居続けた。
喋るテンポが俺の二倍早いんじゃないかと思うんだけど、一生懸命にこっちに話題を振ってくるから、応えないわけにも行かない。
一言二言答えると、話題がまわりに移っていき、俺についていけないハイテンションで話が展開する。
そして勝手に盛り上がって行き、最後に戻ってきたときには、まったく別の話になっているのだ。
酒の席なんだから話題がよれるのは当然だけど、それに相槌を強制されるのは、ついていけない人間には結構苦痛だ。
どうにかこうにか笑った表情だけ作ってるけど、時々「どう思いますぅ?」なんて、隣の席から顔を窺われるので、全然気が抜けない。
下田さんは確かに可愛いし、下世話な話、持ち帰るかと聞かれたら、身体だけなら持ち帰りたいかも……なんてことを考えてると、余計に話題に乗り遅れ、そこを笑われたりする。
「長谷部さんって天然ボケ。おもしろーい」
何かを誤解している下田さんが隣で身体を捩ると、ミニのスカートの裾が乱れて、思わず目を逸らした。
「二次会は、カラオケでデュエットしましょうよ」
「いや、俺は二次会はパス……」
「行きましょうよ。連行!」
ぐいっと引かれた腕の中ほどに、柔らかいかたまりがむにゅっと押し付けられた。
それね、オジサンには刺激強いです。
居酒屋から出て、二次会に不参加の面子と一緒に駅にとっとと向かう。
「長谷部さん、今日はずいぶん楽しそうでしたねえ」
いや別に、いつも通りだったけど。
ただ、話にはずいぶん参加していた気はする。
ちんぷんかんぷんではあったけどね。
そういう意味では、下田さんに少し感謝しなくてはならないかも知れない。
腕に当たった胸のふくよかさとは、また別問題としてね。
いつの間にか隣を歩いていた水元が、ちらっと俺の顔を見上げる。
「下田さん、ずいぶん懐いてたねえ」
「ん?ずいぶん酔っ払ってたみたいだったね。なんかテンション高い子だよなあ」
「惚れられちゃったんじゃないの?」
「俺に?まさか。ひとまわり上だぞ」
地味なパンツ姿の水元は、不思議な顔で笑っていた。