バブ 過去 19歳
「亜美、どうしたどうした?」
なんかあった?と奏美が聞いてくる。
朝からずっとゆるゆるのこの顔を見たら、猿だって察するだろう。
そう!私は浮かれているのである。
それも今期最高に!
生きててよかった(これこそ言葉通り!)。
昨日、バブから言われた、
「お前、俺のバディね」
きゃあ。
これってプロポーズ?はい、違います。
そんな事はわかってる。
でもね。ほんとに特別な言葉なの。
バブは今までずっとソロだった。
ミッションに於いて、何でもこなせて1人で完結できるバブに相方はいらない。
これが組織を含め、世界の常識。
バブの意思。
過去のただひとりを除いては。
バブは19歳の時、サイバーミッションで初めてバディを組んだ。
バブより4歳年上の女性だった。コードネーム・シェリー。
シェリーさんも若手サイバーテロリストの有望株だったから、組織から研修の意味もあってバブと組むよう指示が出た。
そしてふたりは恋に落ちた。
シェリーさんとバブは恋人同士になった。
当時のふたりの事は詳しくは知らない。
海の向こうの出来事だ。
でも他人に心を開かないバブが、初めて愛した人。
それが日本に伝わってきた頃、ふたりはひっそりと愛を育んでいたんだろう。
嫉妬すらできない年齢だった私は、どこかほっとしていた。
バブも人を愛せるんだ。
マーダーの掟。
家族は持たない。弱みになるから。
そして、それはお互いにとって大きなリスクとなる。
強いマーダーの弱点ほど、狙われる事になるのだから。
シェリーさんは恋人だった。結婚はしていなかった。
それでも当時マーダーランキング50位圏内にいて、特にサイバーテロで恐れられ始めていたバブを叩くには、シェリーさんは格好の的となった。
ミッションを成功させた三日後。
報復を受けたのはバブではなく、別件で中南米の国を回っていたシェリーさんだった。
川にうち捨てられていた焼死体は、生きたまま焼かれた痕跡があった。
墨のように黒焦げになり身元不明だったが、遺体が見つかった報せが入ったその日のうちに現地に飛んだバブ本人が確認した。
焼け焦げた中から見つかったのは、バブが贈った小指に嵌めたピンキーリングだけだったという。
バブは泣かなかった。
初動訓練が始まった5歳以降、バブが泣いてるのを見た人はいない。
そして、この日から笑った顔を見る事もなくなった。
バブは本当に誰ともバディを組まなくなった。




