現在 家 バブ
こちらに視線も寄越さず、真っ直ぐにキッチンのシノブさんの隣に立つ。
シノブさん、何作るの?手伝うよ、と愛想はないくせに優しい言葉をかける。変わってない。
「バブもシノブさんって呼んでるー」
大吾が楽しそうにふたりの周りを飛び跳ねていた。
「バブはお母さんて呼ばないの?」
ハナが不思議そうに言う。
そう。私達の中でバブだけが所長夫妻の子供だ、戸籍上は。
ここは4歳以上を預かる施設なのだが、バブは生まれてすぐに施設の前に置き去りにされていた。
夫妻が自分達の子供として引き取った、唯一の例外である。
血の繋がりはないが親子なのだ。
「バブは良いのよ」
シノブさんが笑ってる隣で手を洗ったバブが玉葱を切り始めた。
懐かしい光景だった。
4年前。12歳で帰国したばかりの私と入れ違いで、18歳になったバブはすぐにまたアメリカに戻る事が決まっていた。
だから一緒に過ごしたのは2週間。
その頃もシノブさんの隣で野菜を切っていたっけ。
バブは何でも出来る。頭は特に優秀で、あの時はPh.D(博士号)を飛び級の18歳で取った際の一時帰国だった。
でもでも!
ナイフは今は私の方が上手くなってる筈だもんね!
そう。私だって頑張ったんだよ、バブ。
ここでのナイフとは。
私達の場合、お料理する事では、ない。
現在、全世界において各国の均衡が危うい為、世界共通で政府機関に属する闇組織がある。
有り体にいうと殺し屋を雇っている暗黙の公的機関があるという事。
各要人や或いは国家規模を狙うマーダー組織が存在する。
そしてその傭兵部隊としてのマーダーを子供の頃から育成する機関が存在する。
私達の施設もその関連のひとつ。
国内での10代のマーダーの隠れ家である。
私達全員が国家の殺し屋なのだ。
子供マーダーの育成とは。
まず。何らかの事情で親が手放した子供達や直接政府に売られた子供達が集められる(今のご時世、子供を売る親の多いこと。ちなみに私や大吾もそう。)。
国内で殺人の訓練はできない。だから子供達は5歳になると海外へ"出荷"される。
戸籍はない。
政府管轄になった時点で死亡した事になっているから。
5歳から受ける訓練を12歳から15歳の間に終え、生還できた者にだけ戸籍が与えられる。
そして与えられた名前はミッションの都度、変更する事が多い。
だから普段はコードネームで呼ばれる。
私達にとってはコードネームが本名のようなものだ。
私は"べべ"
JKモデル"藤城亜美"として顔も名前も晒している私の場合は少し特殊。
これは"そういう業界"が関わる任務に入る場合の煙幕になる。
例えば何者かが行うパーティへの潜入やロケと称しての海外渡航など。
"藤城亜美"という政府公認の架空の名前が普通の女子高生では入れない場所へ行く為のパスポートになる。
そして、"バブ"
この金髪イケメンのバブ様成人済みは、こう見えてアメリカの特務機関が手放したくないほどの超ド級のエリートである。
ほぼ最年少記録らしい(目立つのを避ける為、わざと最年少記録の更新を見送った)18歳でPh.Dを取った後の活躍ぶりは特異で、サイバー警察が束になっても敵わない、サイバーテロリストという顔も持つ。
これがバブの強み。
サイバー関連のほか、爆弾作り、銃器の扱いが全て世界トップクラス。
世界最高峰の頭脳明晰・凄腕スナイパー。
17歳で世界ランキング100位圏内に入る快挙を成し遂げた後、今期、発表された世界マーダーランキングは11位。
いよいよ国内第2位となる。
もう誰も手が出せない域に入って来た。
そんなマーダー界隈きっての有名人が、キッチンで玉葱を切っているとは誰も思うまい。




