現在 東波学園 帰宅するもん!
「な、何でもないんだ。安堂が返事もしなくて藤城さんが一日大変だったなと思って」
などと急に早口で捲し立て、じゃ、また明日!とか何とか。
鵜飼達はバタバタと走り去った。
最後は私に言ったんだな。ふぅ。
チッ。
えっ?
横から舌打ちが、聞こえた?
えっ?
吐き捨てるような溜息の後、今日初めて聞く声がした。
「あぁいうヤツには、最初に言いたいだけ言わせておけば気が済むんだよ」
わかってねぇなぁとまた舌打ち。
えぇっ、何何何?負け犬の遠吠え?引用が違うよ私。
突然喋った安堂に大パニック!
しかも、何言ってんの、この人!
喋れるんじゃん。当たり前か。
待って。助けたの私だよ?なんで舌打ちされなきゃなんないの!
大混乱の私を尻目に、安堂は何事もなかったかのように去って行った。
その後、放心状態の私がどれくらいの間、その場に立ち尽くしていたのかは定かではない。チーン。
「シノブさーん!!」
帰宅早々、怒りをぶち撒けずにはいられない。
あの黒メガネのド陰キャ、なんなのよ!
喋れるなら最初から返事しろ!
助けてもらってまずはありがとうだろうが!
ドスドスドス、と廊下を突進しリビングのソファにカバンを投げつけた。
だが何から言えばいいのか判らず、わなわな震えていると天使がやって来た。
「べべ、おかえりなさい」
まだ帽子を被ったままのところを見ると、この子も帰ったばかりなんだろう。
大吾くん。
この天使な5歳は施設のアイドルだ。
そう。施設。
私が帰宅したのは血の繋がらない子供たちが暮らしている場所。
4〜5歳と12〜18歳がいる。
シノブさんはそこの所長夫人でみんなのお母さんでもある。
お母さんと呼んでも名前で呼んでもいい事になっている、温かい人。
「ねぇねぇ、お母さん。バブは?」
大吾がキッチンのシノブさんに纏わりついている。
そう!バブだ!
「お母さん、バブがランク11位になったって本当?」
先にソファで宿題をしていたハナが割り込んできた。彼女はクールな12歳。
バブはどこー?大吾が繰り返す。
いや、私が聞きたい。
バブはどこ?
トントントン。
階段を降りて来る足音と共に姿を現したド派手な金髪が揺れる。
バブ。
騒がしかったリビングが一斉に静かになった。
「べべ、シノブさんじゃねぇ。そろそろお母さんって呼べよ」
バブ。4年振りに会った最初の言葉がそれ?
泣いちゃうよ?
でも、バブだ。




