現在 キッチン
夕食後の当番でシノブさんとふたり、後片付けをしていた。
今日は4人分だから片付けもラクだけど、多い時は10人以上になる。
食洗機、欲しいなぁ。そう思いながら洗い物。
フライパンなどは既にシノブさんが洗い済みだからあっという間に終わる。
シノブさんはいつも、料理が出来た時には同時に調理器具も洗い終わっている。あの手際の良さは見習いたい。
食後のコーヒーを淹れているシノブさんの隣で、冷蔵庫から、マジックで大きく"べべの!"と日付けが書かれた牛乳パックを取り出す。
集団生活あるあるで、個人で買った物には名前を書く。
逆に書かれていない物はなくなっていても文句は言えないルール。
だから何も書かれていない物は、誰かが食べてすぐなくなっちゃう。
育ち盛り怖い。いなご集団か。
「シノブさん。大吾のレクチャー、私が行った方が良かったんじゃない?」
冷たいミルクを飲みながら聞いてみた。
気になっていたのだ。野外経験は私の方が圧倒的に長い。
私の方が、バブよりも実戦に即して教えられると思うんだけど。
そうねぇ。ホットコーヒーを啜りながら言う。
シノブさんは猫舌なのに、夏でも決まってホットを飲む。
「バブから言い出したのよ。」
私やバブ、ハナ達も、みんな初動訓練に行く前のレクチャーはお父さんから受けている。
お父さんとは、この施設の所長で田所 日向、コードネーム・ガン。
シノブさんとは戸籍上の夫婦で、この施設を経営する上で必要なビジネスパートナーでもある。
殺し屋にとって、家族を持つという事は弱みを作るという事でしかない。
だから、結婚はしない。しているならば、それは組織から司令が降ったという事。
第一線にいた頃のお父さんは、各支部をまとめる総本部のリーダーのひとりだったから、それは大勢のマーダーを束ねていた。
シノブさんはそのうちの部下のひとりだったそうだ。
ふたりに恋愛感情があったかどうかなんて、本人達にしか分からないけど、私はないような気がしている。
でも家族。この施設で暮らしている間は誰でもあっても家族だっていうのがお父さんのポリシー。
だから、ビジネスパートナーであっても、家族愛はちゃんとあると思う。
その家族が5歳になったら、初動訓練に送り出す事になる。
お父さんは生き延びる為の力を授けてくれる為に、今まで全員にレクチャーしてくれていた。
初動訓練が始まる前のきっかり10日間。
それが今回の大吾に限っては、どうしてもお父さんにしか出来ない案件が入ってしまい、今海外に行っている。
だから大吾はバブからレクチャーを受ける事になった。
シノブさんの言葉の先を聞こうとしたその時、突然部屋の隅のライトがゆるりと回った。
シノブさんと目を合わせた。
これはこの施設の仕掛けで、何者かが敷地内に入って来た合図だった。




