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規則的なリズムを刻む雨漏りの音で目が覚めた。
壊れた民家だったものを廃材で継ぎ接いだだけの屋内は、至る所から浸水する。
屋根も例外なくどこかに穴が空いており、雨が降るとそれらが合わさって何か所かで地面に水溜りを作っていた。
リリーは顔にかかった水滴を拭って、ベッドから下りた。
父はまだ眠っている。
ドアを開けて覗く外はまだほの暗い。雨雲のせいで時刻が定かでないが、自身の体内時計を信じるのならば、ゴミ拾いに出かける時間帯であるとリリーは考えた。
さっそくとばかりにカゴを持ち、外へと出る。
雨足はそれなりに強く、数分も歩けば髪に浸透した水が先端から滝のように落ちていった。
リリーの黒髪は身長に比して長く、腰ほどまで伸びている。水を含めばそれだけで重量の増加が著しい。
いつもの大きなシャツもまたたっぷりと水を吸い、肌に張り付いている。
リリーの浮き出たあばら骨がシルエットになり、貧相な体をありありと映し出していた。
リリーは雨が好きではない。
理由はゴミ拾いが大変だからである。
雨に打たれれば体は寒く、重くなり、ぬかるむ地面は靴のないリリーの足を簡単に取って滑らせ転ばせる。
だが、問題はそんなことではなかった。
もっと単純に、ゴミの出る量が減るということにある。
水に濡れたゴミを放置すると悪臭を放ち、疫病の基になるとして、市政は雨の日にゴミを捨てることを禁止した。
律儀にルールを守る人がいる一方、特に実質的な罰則が存在しないとして、お構いなくゴミを捨てる人も少数ながら存在する。
その少ないゴミもやはり、同業との奪い合いになるため、中々に苛烈を極めていた。
加えて別の問題も深刻なものがある。
雨に濡れたゴミというのは質が悪いのだ。
捨てられた直後ならまだマシだが、四半日放置も経てば残飯などは食べられた物ではなくなる。
比較的手に入りやすい布や革製品などは、濡れていると買い取ってもらえないので、乾かす必要が出てくる。
物を乾かすには天日干ししなければならず、天気に左右されるのと、快晴であってもどうしたって数時間は掛かってしまう。
そのため、腹も満たせなければ、すぐに金に替えれるわけでもないのが雨の日のゴミである。
こうして雨の日にまで外に出てゴミを漁るのは、貧民の中でもより底辺に位置する、ほとんど死んでいるのと大差ない人間たちくらいのものだった。
同じ退廃特区に生きる者たちにさえ、侮蔑と嘲笑される立場にあるのが今のリリーなのだ。
まあ、そんな最底辺の人間がそれなりの数いるという現実と、明日は我が身と慄く感情の裏返しと思えば、蔑む程度で済んでいるのは可愛いものと言って差し支えないかもしれないが。
雨に打たれる様は傍から見れば幼い幽鬼のごとく、リリーはそれから二時間ほど歩いてみたが、結局、何一つとして成果を得ることはできなかった。
いつもならもう少し遠出をして、あるいは何周か見て回るのだが、期待薄だろうと判断したリリーは、早々に帰路へと着いた。
〇ストーリー要約
・起きたら雨が降っていた
・雨の中ゴミ拾いに出かける
・拾える物は特になく、早々に帰宅




