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もう少しで陽が落ちそうなことにリリーは焦っていた。
明かりがないと漁るゴミの選別が困難になるという理由だけではない。
例えそれが街灯や人通りのある場所でも、トラブルというのは枚挙に暇がなかった。
酒と薬に酔って花に群がる不貞な輩、強盗暴行殺人などの犯罪、怪しい取引現場などなど、訳を挙げればキリがない。
夜という時間帯はただそれだけで危険をはらんでいる。
まして退廃特区とその近辺には街灯が存在していない。
危険と分かっているので人もほとんどいない。
大人でさえ、特別な用事があったとしてもその周辺に近寄ろうとはしない。
そんな中、少女一人が出歩いていたらどうなるかなど、想像に難くないだろう。
月と星のわずかな光に無数の夜闇は、そうしたリスクを齎す側の人間たちの味方であり、その他大勢の敵である。
リリーも父から「死にたいなら夜に出歩け」と教えられていた。ついでに、「死ぬより苦しむ羽目になる」とも。
数少ない父の言葉を大事にしているリリーにとって、その教えは神の啓示のごとく絶対だった。
それなのに、こんな時間になるまで粘っていたのは、単に今日の稼ぎが少なかったからに他ならない。
今日は朝からあの太った男の相手をしたから、いつもより出遅れた。普段は昼頃か夜半にくることが多いのに。二日連続でやってくるというのも、これまであまりなかった。
犬に襲われたことも響いている。あれがなければ、相当な数の骨を売ることができたはずだった。だけどまた犬に噛まれ、病気になって父に迷惑をかけるわけにはいかない。
そんなわけで、リリーは肩を落としてとぼとぼと歩いていたのだ。
だが、もうじき日が暮れる。どれだけ懸命に走ってみても、家に着くころには沈みきったあとだろう。
リリーには、落ち込んでいる暇などなかったのだ。
ペタペタと砂と小石の地面を踏む足音と、自身の今にも絶えそうな呼吸を耳にしながら走るリリーの目に、ふと、キラリと反射する光が映った。
いつもならそんな物は気に留めない。しかし、今日の稼ぎが少ないリリーは、それが小さな金属片であっても、拾っておきたいという欲があった。
リリーはその光った方へと吸い込まれるように駆け寄り、落ちていた物を拾い上げた。
一見すると鉄貨のように丸く小さく硬い金属のようであった。
色は金色で、見たこともないほど精緻な意匠が施されている。
リリーは思った。
——宝物にしよう。
また、一度、父へ見せてみようと。
リリーには、その価値がまるで分からなかった。
せいぜいがキラキラとしていてきれいだな、くらいのものである。
これが金属だったとしても、売れるわけがないとも考えていた。
リリーが金属を売る時は大抵、それ相応に量が必要だったからだ。
手の平に収まる程度の金属では売れるわけがない。
だが捨て置くにはもったいない。そんな気持ちで、リリーはギュッと握りしめ、帰路を急いだ。
〇ストーリー要約
・日暮れまでゴミ拾いをしていた
・帰りにキレイな金属を拾った




