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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第一章

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4


 約十年前の戦争で壊れた民家の一部を人の住める最低限修復したぼろ小屋の自宅のドアをリリーは開けた。


 机に突っ伏して眠っている父の顔の近くに稼いできた小銭を置いて、また外へと出て行く。


 父の寝起きは特に機嫌が悪い。


 夢は幸せらしく、時折、「アリシャ」と呟いてはにやけた顔になるのだが、起きてリリーの顔が目に映ると、目からすっと精気が抜けて、殴ったり罵声を浴びせたりしてくる。


 リリーは父のそんな姿を見たくないし、自分のせいで怒らせてしまいたくもないので、極力は家にいないよう気を付けていた。


 といっても外で何をするのかと問われれば、やることはゴミ拾いだけであった。


 同年代の友達もおらず、徒党を組むグループもいない。リリーの知り合いと言えば、何かよく分からないことをしてお金をくれる今朝の太った男と、ゴミをお金に換えてくれる男だけであった。


 リリーが当てもなく歩いていると、肉屋の前に差し掛かった。


 その肉屋は精肉を卸しているだけでなく、集客のためか、店頭で肉の串焼きも売っていた。


 匂いに釣られた者たちは、思わず店を覗き、ついつい串焼きと合わせて肉を買ってしまう。そういう寸法だった。


 リリーも同じように匂いに釣られて肉屋を見た。


 網の上で炭に焼かれて煙を立てる肉は、脂の弾ける音でさえ唾液腺を刺激する。


 塩といくつかのスパイスが振りかけられた様は、宝石のように輝いて見える。


 思わず、リリーのお腹が鳴った。


 店員はその音でか、リリーに気が付いた。


 舌打ちが飛び、(はえ)でも払うかのように手で返され、蔑んだ目と深く溝を作る眉間の皺が、リリーへの忌避(きひ)感を物語っていた。


 リリーははっと我に返ると、すぐさま店の路地へと駆け込んだ。


 もしまだあの場にいたら、「何見てんだ」と因縁をつけられ、「盗む気だったな」と暴行を加えられていた。


 そのうちに警官隊がやってきて、また自分が逮捕されてしまう。


 以前は父が謝罪と幾ばくかの金銭でやりとりを行い、何事もなく釈放された。父には「迷惑をかけるな」と言われたが、リリーはその出来事を宝物のように胸にしまっている。


 だが、それはそれとして、父に迷惑をかけるのは本意ではないので、リリーはすぐさま退散したのだった。


 暗い路地を抜けようと歩くと、ちょうどよく、ゴミが捨ててあった。


 それも先ほどの肉屋が捨てた物らしく、まだ食べれそうな物や骨として売れそうな物まである。


 中でも比較的大きな骨を見繕った拾ったリリーは、さっそくカゴの中に入れていった。すると前方から、グルグルと喉を鳴らした黒い犬がやってきた。


 まるで自分の獲物だとでも言わんばかりに鋭い眼光で睨んでいる。


 犬に気が付いたリリーは「ひっ」と短くかつ小さく悲鳴を上げ、肩をすくませた。リリーにとって犬とは、恐怖とトラウマの象徴なのだ。


 少し前のことだ。同じようにゴミ拾いをしていたリリーは犬に吠えられた。


 特に気にせずゴミを漁っていると、いきなり犬に噛みつかれ、腕に怪我を負った。


 なんとか逃げ切ったのだが、そのすぐあとに高熱と傷の痛みで気を失ってしまった。


 死にそうなほどの苦しみの中、ぼやけた視界と意識で感じたのは、看病してくれている誰かの優しい手である。


 病院に行くお金なんてない。


 これはきっと父の手だ。


 リリーはそう信じた。


 その後、一命をとりとめ、リリーは元気になった。


 父からは「犬に近づくな」と「次同じ目にあったら殺す」と言われた。


 なんだかんだと言って、父は自分のことを愛してくれていたのだと思うと、リリーは胸がいっぱいになった。


 それはそれとして、怪我と病気を負わされた犬には恐ろしいという思いしかなかった。


 リリーは対峙する犬と目を合わせ、決して逸らさず、ごくりと唾を飲み込んだ。


 どう対処していいのか、方策があるわけではなかった。


 だが、犬が何を狙っているのかはリリーにも分かった。


 自分と同じで、肉が欲しいのだ。


 もしそうなら、話は簡単だ。


 リリは震える手をゆっくりとカゴに入れ、肉の付いた骨を引き抜いた。


 犬の目がわずかに揺れて、視線が骨の方へと吸い込まれていく。


 リリーは骨を大きく左右に振った。


 犬の視線もそれに合わせて動いた。


 リリーは突然、犬の後方へとその骨を投げた。


 犬は骨に釣られて後方へと翻り、駆けていく。


 自身の後方を振り返ったリリーもまた、全力で走り去って路地を抜けた。


 リリーはそのまま無我夢中で走り、家の近くまで帰ってきた。


 肩で息をしながら後ろを振り向くと、犬はいなかった。


 ほっと胸を撫でおろしてしかし、走っている途中で落としてしまったであろうカゴの中身と、まだ拾える物がたくさんあったことへの後悔が追い縋る。


 今日は全然ダメだったな。


 リリーは溜め息を吐いた。


 それでもお金は稼がないといけない。


 気を取り直したリリーは、再び、ゴミ拾いへと歩き出した。


〇ストーリー要約

・午後のゴミ拾いに出かける

・肉屋の横の路地でたくさんの骨を発見する

・犬と対峙して、なんとか逃げる

・ゴミ拾いを再開する

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