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リリーは痛みに痺れて震える体を起こした。
膝丈まで隠れる大人物の薄汚れたシャツだけを着て、踏み抜いてしまいそうな二段ベッドの梯子を下りる。
底に小さく穴の空いた木製の丸カゴを脇に抱え、背を追われるように外へと出た。
あいにくと天気は晴れだった。
とりあえず、リリーはいつもの巡回ルートへと足を伸ばした。
退廃特区と呼ばれる貧民街を出て、下流から中流階級層が暮らしている地区へと入る。
基本的には路地裏を行き、大通りに出る時は身を小さくして隠れるように端っこを歩いた。
軒を連ねる一軒家、ほとんど満室のマンションなどのゴミ捨て場はやはり、同業者が漁りつくした後だった。
早朝に店を開くパン屋や惣菜屋、朝市の露店付近のゴミ捨て場も同様である。
レストランなどもまだ稼働しておらず、朝の決まった時間を逃すとゴミを拾える可能性はかなり低くなってしまう。
リリーはしかし、諦めることなく、なおも歩いていた。ゴミを拾い売らねば生活費を稼げないのだ。
不意に、とぼとぼと地面を見つめていたリリーの頭上から何かが雨のように落ちてきた。
リリーが頭を振って目を開けると、周囲には残飯らしきゴミが散乱していた。
上を見ればマンションの三階からゴミ箱を逆さにして上下に振る住人と目が合った。
住人はリリーを一瞥して不快な表情を浮かべると、ピシャリと音を立てて窓を閉めた。
リリーは地面に目をやった。
落ちているゴミをざっと見ただけで、それはお宝の山のようだった。
おそらくベッドシーツと思われる、広げた両腕よりも大きな布が一枚に穴の空いた靴下が二組。
野菜の切れ端、卵の殻、腐ったチーズっぽいもの、カビたパンなどの残飯。
ことさらに目を輝かせてくれるのは、十数本の肉のついた骨である。
布類をまとめてカゴに入れたリリーは、まだ食べられそうな物を選び、急いで口に入れていく。
ろくなご飯や水を確保できない退廃区民にとって、食べれる物は食べれる時にたくさん食べてしまえという教えが自然と根付いていた。腹の中に入ってしまえば、そうそう奪われることがない。
本音を言えば、ここに金属類があれば完璧だったのだが、これだけでも十分な稼ぎになることが予想された。
金属類は言わずもがな、破れたり汚れたりして捨てられた布類もそれなりの値段で売ることができる。
捨てられた残飯などはそのまま食事となり、また、肉の付いた骨は、貴重な肉も食べれるうえに、骨も肥料として売れる一石二鳥のお宝である。
諸般の事情などで働くことができず、生活に困窮して貧民街に居を構え、それでもなんとか生きていかなければならない者たちにとって、このようなゴミ拾いはまさしく生命線なのだ。
しかし、近年ではそれも徐々に難しくなっていた。
一つは市の衛生管理の徹底化である。ゴミは一か所に集めて埋めるか焼却する議論がなされ、一部試験的に実施されている他、ゴミ収集を公金で行うアイディアもあるらしい。
一つは社会格差の拡大である。富める者はより富み、貧しい者はより貧しくなる。訳あって社会保障が縮小しており、貧困層はさらに増大している。同業他者が増えれば、取り分が減るのは自明のことだった。
一つは差別である。住民はこのような浮浪者を侮り、蔑み、種々様々な嫌がらせもとい暴行などの犯罪をしている。警官隊等に訴えたところで見て見ぬフリをされる。またこのゴミ拾いも骨拾いなどと揶揄され、住民の側から規制しろという声が上がっていた。
そんな社会の事情などを露ほども知らないリリーは、満腹になったので、ゴミ拾いを再開するべく、カゴを持って立ち上がった。
〇ストーリー要約
・リリーが生活費を稼ぐためにゴミ拾いへと出かける
・運よくゴミを漁ることができて、朝食と布をゲット
・次のゴミ捨て場へ




