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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第二章

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15


 リリーが眠ってしばらく、リゼはリビングでランプを灯し、本を読んでいた。


 ページを一枚めくり、ランプの火が風に揺れて、影に満ちた部屋の造形がわずかに歪む。


「ただいま」


 ジェイドが帰ってきたのは、夜も更け日付の変わったくらいの時分(じぶん)であった。


「おかえりなさい」


「リリーは?」


「リリー?」


「連れてきた女の子」


「へぇ、リリーって言うのね。リリーならお風呂に入ってぐっすりよ」


「そっか。どうだった」


「事情があって声は出せないみたいだけど、怪我もないし意思の疎通もできる。それと、レオンやあなたと比べて聞き分けがよかったわね」


「そりゃ耳が痛いね」


 ジェイドは苦笑いを浮かべて、リゼの対面の椅子を引き、腰を下ろした。


「それで、拾ってきた経緯を説明してくれる?」


「そうだな。何から話そうか」


「目的から」


「聞いたら驚くぞ」


「リアクションの準備はバッチリよ」


「さすが。読書をする余裕まであるとは思わなかったけど」


 リゼは会話をしながら文章に目を滑らせ、ページをめくる。


 ジェイドはテーブルに両肘をついて手を組み、身を乗り出して、いかにも神妙な面持ちといった風な目をした。


 リゼの経験上、もったいつけた役者のような振る舞いをするジェイドの言葉は、朝市でたたき売りをしている露店の店主の格安セールと同じくらいの適当さで聞くのがちょうどいい。


 ジェイドの特技は隠し事で、趣味は暗躍だ。そんな人間の話を毎回全て真面目に受け止めようとすれば、どれだけタフな精神を持っていても参ってしまう。


 長年の付き合いがあるリゼは、そのことをよく分かっていた。


 ゆえに、心構えもなしに、重大なことが言い渡されてしまうのだ。


「あの子は、スタンピードを止める鍵になる」


 ぱたん、と音を立てて本が閉じられた。


「……はぁ?」


 次いで、リゼの苛立ちと戸惑いをはらんだ疑問が口をついて出て、剣閃の走るような鋭い眼光がジェイドへと突き立てられる。


 それは優雅を(つくろ)う余裕のなくなったリゼの、紛れもない本性の一端だった。


「待って。冗談でしょ」


「俺が冗談でこんなこと言うと思う?」


「自分の胸に手を当ててごらんなさい?」


 眉根をひそめるリゼに言われたジェイドは、「心臓が元気に動いてる」揶揄(からか)うように笑みを浮かべる。


 目を閉じ固い眉間のシワを揉みながら、リゼは舌打ちを鳴らして溜め息を吐いた。


「確定なの?」


「これからの頑張り次第かな」


「被害は?」


「最悪を回避できる」


「本当に、あんな子が?」


「そこは保証する。他でもないこの俺が」


 いつになく自信満々に言い切るジェイドを前に、リゼはそれ以上の疑義を挟む余地がなかった。


 溜め息混じりの深呼吸が刹那の静寂を埋め、意を決したようにリゼは口を開く。


「分かった。私は何をすればいいの」


「リゼにはレオンの時と同じことをしてもらいたい」


「初等教育、基礎戦闘術、魔力の基礎、でいいのね」


「それに加えて剣術も」


「いいの? 知ってると思うけど、厳しいわよ」


「身に染みてるよ。思い出すだけで今でも震えてくる」


「ご所望ならいつでも相手してあげるけど?」


「遠慮しておくよ。今夜の夢に出てきそうだ」


「あら、美女の誘いを断るなんて火遊びにはもう飽きたの?」


「最近学んだんだけど、芯の通った男ってのはモテるんだ」


「ふっ、火傷しないといいわね」


「火葬は……、ちょっとシャレになってないね」


「骨なら拾ってあげるわよ」


「できることなら、そうなる前に助けてほしいんだけど」


 夜もすがら、肌寒い気温にあってしかし、ジェイドは底冷えするようなリゼの怒りを感じ取っていた。


 つと、冷や汗が背筋をなぞり、肌を(あわ)立たせる。


 リゼは言葉にこそしなかったが、「また私に押し付けるのね」と言外に圧力をかけている。


 このまま会話を続けていれば、そう遠くないうちに虎の尾を踏み襲われて、逃げた先の(やぶ)に突っ込み、出てきた毒蛇に噛まれ、自らの手で墓穴(はかあな)を掘ることになる。


 危機を察知したジェイドは、必要な話も終わったことだし、早々に退散しようと腰を浮かせた。


「それじゃ、おやすみ」


「ええ。おやすみなさい」


 ジェイドはそのやりとりにほっと胸を撫でおろし、そそくさとリビングから出て行く。


 獲物を取り逃がした狼が、小さくなっていくその背を睨むような、リゼの視線に気づかないフリをしながら。


〇ストーリー要約

・ジェイドが帰ってきてリゼと話し合う

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