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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第二章

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 二人の間を抜ける風の音さえ聞こえてきそうな静寂にあって突然、上から声がした。


 男たちはびくりと肩を尖らせて足を止め、息ピッタリに声のした方を見上げた。


 二階建ての廃屋の上に人影が現れ、屋根を蹴って跳躍したかと思えば、あまりに静かに、男たちの目の前に着地した。


「だ、だれだ」


「名乗るほどのもんじゃない」


 声は低く腹にずっしりと響く重みがある。



 夜闇の中でフードを被っているのもあって顔は分からないが、二人の男たちよりも背が高く、肩幅も広い。


 性別は男だろう。そして、目的は男たち二人か、あるいは……。


「な、なな、何が目的だ」


「話が早くて助かるよ。そこのお嬢ちゃんを俺にくれ」


「ダメだ。これは俺たちが捕まえたんだ。欲しけりゃ金を払え!」


「いくらだ?」


 フードの男はそう問いつつ、上着の内ポケットをまさぐり、硬貨を取り出した。


 親指に乗せて、ピンと音を立てて弾かれた硬貨がくるくると宙を舞う。


 リリーを担いでいない方の男が硬貨をキャッチし、じっと見つめて目を凝らした。


「き、金貨?」


 驚きに目を見開き、手に持ってなお信じられないといった表情で呆けてしまう。


「おい、俺にも見せろ」


 もう一人の男が引っ手繰るように金貨を奪い、天にかざして、裏に表にじっくりと観察する。


「偽物じゃないよな?」


 男たちの反応は至極もっともで、例え一般人であっても金貨に触れる機会など一生に一度あるかどうかといった程度である。


 底辺も最底辺に位置する二人組にとってしてみれば、見ることさえ叶わない代物なのだ。


「俺の言葉を信じられるなら、本物ってことになるな」


 もったいつけた言い回しをするフードの男の言葉に、二人はごくりと唾を飲む。


 もし本物なら、こんなにおいしい話はない。


 正直なところで言えば、リリーを売っても、よくて銀貨数枚と二人は考えていた。


 それどころか、買い叩かれて銅貨数枚、あるいは買う価値がないとして門前払いなんて可能性も十分ある。


 これが偽物であっても、失うものなんてほとんどない。


 勝ちの目は大きく、負けることもない、分のいい賭けである。


 二人は互いに顔を見合わせて、綻ばせた口元を上げ、小さく頷き合った。


「いいだろう、交渉成立だ。って言いたいところだが……」


 しかして悲しいことに、金貨一枚では男たちの借金にはまだ足りない。


 加えて、惜しげもなく大金を払えることとはつまり、この少女にはそれだけの価値があると認めているようなものだ。


 ゆえに、つい欲が出てしまった。


「俺たちも相応のリスクを負っているんでね」


「つまり?」


「金貨二枚だ」


 男は人差し指と中指を立ててフードの男に突き付けた。


 ずいぶんと強情な要求ではあるものの、相手が渋るようなら値下げ交渉に応じればいい。


 その場合、金貨二枚とはいかずとも、銀貨五十枚くらいは追加で得ることができるだろうと男は楽観的だった。


 フードの男は溜め息を吐くと、懐に手を忍ばせた。


 二人組はその仕草を見て思わず、「やった!」と心の中で歓声を上げ、感情が表情にさえ表れていた。


 だが、懐から出てきたのは金貨でもなければ銀貨でもなかった。


 短く太い円柱の先に筒が伸び、その下には持ち手が付いている。


 一見すると鉄砲に見えなくもないが、片手に収まるほど小型の物など聞いたこともない。


 筒の穴が二人に向けられる。


 男たちにはそれが何か分からず、また考えるより先に、その事象は発生した。


 ドン!


 フードの男の持つその筒から火花が弾け、まるで近くに雷でも落ちたのかという轟音が目の前で炸裂した。


 さらには、二人の間を縫うように、足元の地面が穿たれクレーターのような穴が空いている。


 男たちはポカンと口を開け、目を白黒させて、腰が抜けたのかその場にへたり込んだ。同様にして、担がれていたリリーも地面に落ちた。


「失せろ。お前らを殺してやる義理は俺にはねぇ」


 一切のブレもなく銃口が向いたまま、残り五発の弾丸が込められているシリンダーが六十度回される。


 カチリ、と音がして、フードの男の人差し指が再び引き金に掛かった。


 一連の所作に恐怖が最高潮へと達した二人は、一も二もなく、また這い這いの呈で背を向け、恥も外聞も脇目もふらず、ゴキブリのようにいっそ清々しいまでの敗走を披露する。


 男たちの姿が完全に見えなくなってようやく、フードの男はリリーに近づき、目隠しを解いた。


「危ないところだったな。あのままだと死んでたぞ」


 先ほどまでとは打って変わって、非常に穏やかな声と口調は気品に満ちていた。


 これで月明かりに照らされ、フードを取った顔が若く精悍であれば、かつ助けてくれた恩も手伝い、き

っと恋心が芽生えていたに違いない。


 もちろん、リリーでさえなければ。


 当人はといえば、銃声に驚きこそしたものの、状況は依然として何も変わっていなかった。


 所詮、誘拐拉致の相手が二人から一人になったくらいの認識で、目の前の人物の言いなりになるだけである。


「俺はジェイドってんだけど、いや自己紹介は後にするか」


 ジェイドと名乗った男は言葉を止めると、手足を縛られたままのリリーを小脇に抱えた。


「じっとしててくれよ」


 ジェイドはそう言うと、膝を深く曲げて屈み、ぴょんと垂直にジャンプした。


 それを見たリリーは銃声を聞いたときよりも驚くことになった。


 なんとジェイドは、二階建ての建物の屋根まで飛んでいたのだ。


 階段を二段分飛ぶのも難しいリリーにしてみれば、その光景がいかに現実離れしたことなのかがよく理解できた。


 大人というのはこんな事ができる生き物なのかと目を丸くするリリーをよそに、ジェイドは辺りをキョロキョロと窺って、「あっちか」と呟く。


「とりあえず安全なとこに行くから、暴れたりすんなよ?」


 暴れようにも手足の自由はなく、また端から抵抗する気などないリリーは頷いてみせた。


「よし、じゃあ行くか」


 言うなり、ジェイドは闇夜の空を駆け出した。


〇ストーリー要約

・フードの男がやってきて、リリーを渡すよう要求される

・欲張ったチンピラたちがリリーを置いて逃げる

・フードの男はジェイドと名乗り、リリーはまた誘拐される

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