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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第二章

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 朝日と共に軋む体を起こしたリリーは、いつものようにゴミ拾いへと出かけた。


 一晩寝れば疲れや軽い怪我が治ってしまうリリーでも、蓄積したここ数日の疲労と、蹴飛ばされた痛みは抜けきっていない。


 昨日はあの後、体を休めるのもゴミ拾いに出ることもなかった。


 普段ならば、午後のゴミ拾いに行かないことを父に責められたり、何かあったのかと問われたりするのだが、外傷のなかったことと、影が伸びきった夜更け前まで男の相手をさせられていたことで、疑いの目は疑いのまま終わってくれた。


 あの男のおかげ、というと釈然としないものがあるけれど、午後のゴミ拾いに出かけなかった口実になったのはたしかである。


 まあ、そんなことを丁寧に言語化できるわけがないリリーは、少しモヤモヤとした気分を抱えながら、黙々とゴミ拾いに勤しんでいた。


 そんな日暮れのことであった。


 ゴミ拾いを終えたリリーが換金所から出ると、二人の男が目の前に立っていた。


 二人の背格好は似ていて、いかにも浮浪者然としており、この地域のチンピラだろうと見える。顔立ちも似ていることから、歳の近い兄弟かもしれない。


 リリーは横に逸れて通り過ぎようとしたが、二人組はその行く手を遮った。


 男たちは店に入るという様子はなく、明らかにリリーを目当てにしているといった雰囲気を隠そうともしていない。


「なあ嬢ちゃん、その手にあるもん俺らにくれよ」


 案の定、リリーが顔を上げて目を合わせると、鉄貨を握りしめた拳を指差した男が言った。


 わずかに眉毛をピクリと上げたリリーは躊躇いを見せたが、男の一人に拳を開いて差し出した。

 リリーの逡巡はほとんど一瞬の出来事で、傍から見れば何の抵抗もなくただ従順に言うことをきいたと思えることだろう。


 実際、硬貨を受け取った男たちの方が、リリーのその行動に驚いていたほどである。どんな女子どもであれ、悪戯に金を寄越せと迫って、はい分かりましたという人間は、退廃特区で生きていけるわけがないのだ。


 男たちは互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべて小さく頷き合った。


「聞き分けのいい子だな。どうだ、ちょっと付き合えよ」


「俺たちいま人手が足りなくてさ、仕事を手伝って欲しいんだよ」


「もちろん報酬は弾むぜ」


 男たちは建前上、提案という形を取っているものの、リリーの手を取り引いて、有無を言わせることなく、半ば強制的に歩き出していた。


 リリーもリリーで、端から抵抗する気はなかったので、大人しく手を引かれて歩いている。


 建物の隙間を通り、細い階段を下って、ギリギリ道と言えなくもない路地へと入っていく。それはただでさえ人気(ひとけ)のない退廃特区にあって、その中でもさらに人の寄り付かない方向だった。


 このまま行けば、共同墓地とは名ばかりの死体遺棄と墓荒しが繰り返される無法地帯に差し掛かるといったところで、男たちが足を止めた。


 目的地に着いたのかと思って、リリーは同様に足を止めた。


 と、次の瞬間。


 男の一人が振り向きざまにリリーの頭部を殴りつけた。


 リリーは勢いそのままに地面へと倒れ込んだ。


 何が起こったのかも分からず、痛みに震え悶えていると、男の一人がズボンのポケットから麻で編まれた縄を取り出し、リリーの両足と後ろ手に両手を縛り上げた。


 次いで、リリーの口の中に布を突っ込み、また目と口を布で縛った。


「バカなガキだな」


 リリーを縛った男が得意気に言った。


「でもよ、普通こんなホイホイ付いてくるか?」


 リリーを殴った方の男はひどく(いぶか)しんでいた。


 それもそのはずで、こんな見るからに怪しく危ない人間に声を掛けられようものなら、まず真っ先に逃げるはずだ。


 仮にそれができずとも、逃げる素振りを見せたり、どこかで大声を上げて助けを呼んだりはあってもいい。というかその方が自然なのだ。


 だが、リリーはそんな様子をおくびにも出さなかった。


 そればかりか、恐怖や緊張している様子もなく、ただ淡々と言われるままに付いてきて、こうして捕まっている。

 男は、リリー自身が囮か罠であり、自分たちはまんまとおびき出されているのではないかとさえ疑っていた。


「心配症だなお前は。どうせ怖くて声も出ねーだけさ」


「そういうもんか?」


「小便漏らしてないだけ立派な方だっての」


「こいつの親とかが実はヤバいやつだったりして」


「うるせーなぁ。んなもん売っぱらっちまえば関係ねーよ」


「買ってくれるやつなんているかな」


「五体満足のメスガキなんて、物好きがそれなりの値段で買うだろ。まあ、借金にはほど遠いけど、骨拾いよりかは稼げるだろ」


「そう、かな」


「つーか、俺たちにはこうする以外にどうしようもねーんだ。腹決めろ」


 そう。例えリリーが罠であっても、男たちにはもう後がなかった。


 ギャンブルでの借金が膨れ上がり、とっくの昔に首は回らなくなっている。


 ちまちまと小銭を稼いだところで焼け石に水である。


 まとまった大金が必要だったのだ。


 そうしてまた、いよいよ借金取りから逃げられないと悟り、人身売買へと手を出すことにした。


 しかし、いくら男二人と言っても、体格がいいわけでもなければ、特別な技能やそういった裏家業を生業とする人間との繋がりはほとんどない。


 そのため、一番に売れそうな貴族の子女や一般的な若い女性、あるいは成人男性などを標的にすることもできない。成功した時のリターンと難易度が見合っていなさすぎる。


 そこでたまたま出会ったのが、リリーというわけである。


 金になるかはともかくとして、こいつなら捕まえることはできそうだと二人は考えた。暴れられても対処できるという安心感も背中を押した。


 結果は大成功。この期に及んでなおも悲鳴すら上げないリリーのことは不気味に思えてならなかったが、捕まえるとうい目的は達成している。


「とりあえず売りに行こうぜ」


 男の一人はリリーを肩に担いで言って歩き出した。


 担がれたリリーはやはり、暴れたりということもせず大人しい。


 もう一人の方は、まだ不安が拭いきれない様子だったが、やってしまったものは仕方がないと諦めて、その背に続いた。


 辺りにはもうすっかり夜の帳が降りていて、雲と月のない星明りのみの空の下で、人生最大の悪事を働いている真っ最中の二人は、妙な緊張感から無言になっていた。


「ちょっと待ちな」


〇ストーリー要約

・リリーはゴミ拾いの換金時に二人組の男に絡まれる

・その男たちに誘拐される

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