インターハイ東京予選決勝 恋風VS円帝8
『なんという事だ!? この東京予選決勝で信じ難い事が起こりました! PKで大ピンチだった恋風、GK大花のスーパーセーブから大きく出された球が前線の守山へ渡り、見事な個人技からのゴール! あの東京女王、円帝女学院から先制点を決めてみせた!!』
『円帝が先制点を予選で許すなんて、どれぐらいぶりになるのか……しかしあのPKをキャッチした上、すぐパスを送る切り替えの速さが彼女は驚異的ですね……!』
物凄いスーパープレーを一気に見た僕は衝撃に襲われ、言葉が何も出て来ない。
ベンチの控え選手や神坂先生はスタンドの人達に負けないぐらい、大盛り上がりでお祭り騒ぎみたいだ。
ピンチの後にチャンスありって言うし、サッカーは何が起こるか分からないとも聞いている。
ただ、これは流石に起こるとは思ってなかったし、今の僕の中には大きな喜びと驚きが混じっていた。
フィールドの選手達は狼憐先輩の元へ行ったり、守華さんの方へ走ったりと皆が先制点に喜び合う。
「ナイスゴール狼憐先輩ー!!」
僕はようやく声を出すと、貴重な先制点を決めた狼憐先輩のゴールを称える。
「やったよ先輩達ー! 円帝から先制点って凄くない!?」
「凄過ぎだって! マジ半端ないし!!」
僕も飛び上がって喜び合いたい所だけど、まだ試合が終わっていない上に相手は円帝。
このまま容易く逃げ切らせてもらえるとは考え難い。
「皆、気を引き締めてー! 此処から円帝ガンガン来るよー!」
僕は改めて皆へ集中して引き締め直すようにと、声を掛けた。
それに一部の選手達が僕の声に気づき、こっちを見れば集中しようと声を掛け合う姿が見える。
今大会初失点を許した円帝の方を見てみれば、さっきとは雰囲気が違う気がした。
全体的に殺気立っているというか、とにかく空気が全然違う。
そして彼女達は同点ゴールを取ろうと、文字通りの怒涛の攻めを開始する。
『右から蜜柑が突破! 恋風ゴール前へ一気に迫る!』
円帝がサイドから恋風の守りを崩しに来て、蜜柑さんが一段階ギアを上げたドリブルで花音さんを抜き去る。
このまま独走を許す、かと思えば咲月先輩のカバーが入って進ませない。
良い守備でPKを与えてしまったミスを取り返すような動きだ。
「中央から!」
聞こえてきた声に横を向くと、何時の間にか叶監督も前に出て来て指示を伝える姿があった。
その光景で円帝が僕達から本気でゴールを奪う、そういう気持ちが充分な程に伝わる。
けど、だからと言って負けたくないはない。
折角の貴重な先制点が無に終わってしまうのは駄目だ。
「右フリーなってるよー!」
僕はフィールドの状況を見ると選手達へ向かって叫ぶ。
応援というより指示を出す、という感じだと言った後に気づく。
『芹華、パスを受けて左へ! おっと真理華が姉のパスを読んでいた!』
『良い読みをしてますね妹さん。攻守でお姉さんに負けない活躍を見せてますよ!』
真理華さんが芹華さんのパスを読み、インターセプトに成功。
逆サイドからの攻めを阻止して、円帝に攻撃をさせない。
攻められてはクリアで凌いだりと、前線で狼憐先輩が体を張ってキープしたり、時間は経過していく。
こんな時に限って時間が、ゆっくり進んでる感じに思えてしまい、早く終了まで行ってほしいとなってくる。
けど円帝は試合終了まで待ってくれる事は勿論無く、ひたすら攻め続けて来た。
「……!」
それでも月夜先輩が低いクロスを弾き返して危険な所を潰したり──。
「てぇぇ!」
「やー!」
莉音先輩、花音先輩も守備に下がってプレスを一生懸命かけたり──。
「っ!」
真理華さんの冴え渡る読みでボールを取ったりと、円帝の波状攻撃を跳ね返し続けて集中する。
『後半、時間は残り少し! 1ー0のスコアは変わらず恋風が逃げ切るか!? それとも円帝が女王の意地を見せるのか!?』
『このまま破れば恋風、ジャイアントキリングですよこれ!』
試合終了の時が近づき、胸の高鳴りが止まらない。
此処まで何回「早く主審、終了の笛を吹け!」と心の中で願って叫んだのか、もう数え切れなかった。
そんな時、センターサークル付近で恋風のファールになるとパワープレーに出たのか、恋風ゴール前には燐火さんだけでなくGKの大葉さんまで上がり、円帝は長身選手を集結させた。
185cmあるヘディングは厄介で此処は凌ぎたい。
円帝のキッカーは芹華さんが務める。
FKが始まると、芹華さんの正確な右足でゴール前へ高いボールが放り込まれていく。
位置的に守華さんが飛び出すのは難しくて、燐火さんが頭で繋げると大葉さんはマークする月夜先輩より高く跳ぶ。
ヘディングが恋風ゴールへ向かっていき、スピードが出ていた。
やられる──。
そう思った時、守華さんが横っ跳びでダイビングキャッチ。
終盤でビッグセーブが飛び出し、スタンドが盛り上がると主審が笛を口にしたのが僕から見える。
試合終了の笛が決勝のフィールドで鳴り響く──。
恋風1ー0円帝
狼憐
マン・オブ・ザ・マッチ
大花守華




