決勝の舞台で再会
インターハイ東京予選決勝戦の当日を迎え、僕達恋風女子サッカー部は会場に到着する。
「うわぁ、立派な会場だなぁ~」
咲月先輩は予選の中で最も大きな会場を見上げていた。
僕も見上げていて圧倒されてしまうし、自分が選手として所属の時でも実際に此処までの会場に来た事は無い。
此処でたった一つの全国大会行きを懸けた戦いが始まるんだ。
「大丈夫か皆、緊張してるのはいないか?」
「うーん……ぶっちゃけ緊張してますね」
「同じく、全国行きの試合で緊張無しは無理ですってー」
狼憐先輩が皆へ声を掛けると莉音先輩、花音先輩がそれぞれ返事をする。
頼れる主力選手でも、こういう大舞台を前にすればドキドキしたりと緊張は当たり前だと思う。
こんな環境を練習で慣れるとか中々出来そうに無いし、決勝は相手がどうというよりも緊張とどう向き合うかが鍵なのかもしれない。
「さあさあ、此処で立ち話よりもロッカールーム行って早々にアップの用意とかしとかないとー!」
そこに守華さんが手をパンパンと叩き、会場へ入るように促していた。
堂々と構えてる感じが守護神として頼もしく見えて、この試合も何時も通りゴールを守ってくれそうな雰囲気が伝わる。
僕達は決勝の会場へと入っていく。
☆
「はぁ~……このフィールドで皆サッカーするんだなぁ」
選手達がロッカールームで着替えている間、男の僕は1人フィールドへ行って試合会場を眺めていた。
大事な大会の決勝戦で、自分が出られる立場じゃないのは分かっている。
けど、この大舞台を見て体の血が滾らずにはいられない。
フィールドに立てる選手達が羨ましいと思ってしまう。
「これが予選で全国だったら……どれだけ凄いんだろう」
僕が憧れ続けた遥か遠いと感じられた全国大会、そこに後一つ勝てば進む事が出来る。
恋風の皆には頑張ってほしいし、勿論その為に僕も今回何時も以上にサポートしていくつもりだ。
会場での準備を手伝った後、僕はロッカールームに戻っていく。
っと、その前にお手洗い……!
☆
用事を済ませて僕は手を洗った後に男子トイレから出て来た。
「よぉ、神兎」
そこに聞き覚えある女子の声が聞こえ、僕が振り返ると急に僕の首に腕を回して密着してくる。
「お……大加護さん!?」
「ああ? んだよつれねーな、燐火って呼べよそこは」
長身の金髪女子こと円帝のDF大加護燐火さん。
彼女が此処にいるという事は円帝も会場に到着して、燐火さんも選手登録されてると見て良い。
それより凄い密着してくる!?
頭に柔らかいのが当たってきてるから……!
「あの時といい、お前は男なのに小さくてほっせぇなぁ。飯食ってんのかぁ?」
「一応……食べてます……」
僕は燐火さんの問いかけに顔を熱くしながらも答えるしかなかった。
「なぁ、試合終わったら暇? そうだったらあたしと遊びに行こうぜ。最高に忘れられない良い日にしてやるからよぉ……?」
「え、あ……あの……?」
抱き寄せたまま燐火さんは僕を解放しないまま、遊びに誘ってくる。
これから敵として戦うのに遊びへ誘うって良いのか?と僕は戸惑ってしまう。
「おい、何をしている燐火」
そこへ別の女子の声が聞こえてきた。
ついこの間に聞いたばかりなので誰の声なのか、すぐに分かった。
芹華さんだ。
芹華side
燐火の戻りが若干遅いので嫌な予感がして見に行ってみれば、案の定だ。
あの女が小平君に絡んでいたとは……!
貴様、1軍に上がったからって調子に乗ってないだろうな?
「ちっ、いっつも良い所で邪魔しやがって。あたしのストーカーかよ」
「人聞きの悪い事を言うな、たまたまお手洗いで通りかかっただけだ」
誰がストーカーなんぞやるか、小平君にならともかく貴様にはやるつもりなど全くないわ。
燐火は渋々とした様子で小平君を解放する。
「大事な試合前にすまない小平君、大丈夫か?」
「いえ、僕はなんともないですから。燐火さんと出会ってふざけ合っただけっていうか」
絶対絡まれたはずなのに小平君は燐火をかばうような事を言う。
本当、君は優し過ぎて尊い子だな……!
「そうそう、あたし達は仲良く話してたもんなぁ神兎!」
燐火は小平君の頭をくしゃくしゃと撫でてくる。
おいこら、やめろ。
小平君のヘアースタイルを乱すな、触るな、近づくな……!!
「我々は円帝、相手は恋風だ。マネージャーでも馴れ馴れしく話さないように」
「お堅いねー。んじゃ、後のお楽しみは試合後って事で。神兎、試合後に連絡するからなー」
「あ、はい」
そう言って燐火はロッカールームの方へ引き上げた。
連絡という事は、あいつ密かに連絡先を聞いていたのか!手の早い奴め……!
「うちの部員がすまない小平君、後で厳しく言っていこう」
「い、いえ。燐火さんは迷惑かけてないですから……」
私が彼に頭を下げると、小平君は燐火を悪くないと庇う。
そこまで言われると私も強く言えなくなってしまうので困るが、まあいい。
燐火の事よりも今は決勝戦、愛しく思う彼相手だろうと勝利まで渡す訳にはいかなかった。
恋風である彼も今回は敵だ。
「まあ、あんな奴だが試合ではDFの要だ。……悪いが決勝で勝つのは我々、全国は何時も通りに円帝が行く」
「それは……恋風だって同じです。円帝が強い事は分かってますけど、皆も練習試合の時より強くなってますから」
1ヶ月以上前の練習試合、あれからこの決勝で私達と戦える程までに来た事には正直驚いている。
だが、円帝はあの時の2軍と違って今回はベストメンバーの1軍揃いだ。
彼には悪いが恋風には此処で散ってもらう。
「強くなってるなら加減など必要無いな」
私はそれだけ言うと小平君に背を向けて歩き始める。
本当はもっと傍にいたい、話したいという思いを必死に押し殺しつつ……。




