突然の再会
「女子サッカー部が決勝進出!?」
「後1つで全国出場って、凄くない!?」
「これ皆で応援行かないとヤバいじゃん!」
決勝進出を決めてから学校へ来てみれば、女子サッカー部の快進撃に驚く人達が最初の頃と比べて凄く増えていた。
あの廃部寸前だった状態から、全国という華やかな舞台に行けるかもしれない所まで来てる。
まるで漫画みたいなシンデレラストーリーだ。
「マネージャー! 莉音ちゃんや花音ちゃんのサポートしっかりなー!」
「狼憐先輩の事もちゃんと見てねー!」
「お前も頑張れよー!」
僕の姿に気づくと皆が声を掛けてくれて、なんだか嬉しくなってしまう。
「皆さんありがとうごさいます! 決勝勝って全国行きますから!」
僕がサッカーをする訳じゃないけど、全国へ行きたい気持ちは凄くある。
憧れ続けて届かなかった晴れ舞台、努力して手を伸ばしても全然遠過ぎた世界。
そこに行けるかもしれない。
僕はマネージャーとして選手達が全力で試合が出来るよう、精一杯のサポートをしていこう!
張り切って部活だけでなく勉強も頑張って、インターハイ決勝に備える。
☆
「今日は何にしようかなぁ……」
部活が終わって僕は家に帰る前、スーパーへ買い物に行って今日の夕飯を買おうと、恋風駅前まで足を伸ばす。
僕が何を食べようか考えながら歩いていると──。
「あれ?」
向こうから白いフードをかぶったパーカーの人が走って来る。
この季節で長袖や下にジャージと結構暑そうだ。
そこから見える銀髪、そして漂う雰囲気に何処か覚えがあった。
「──小平君?」
先に相手から気づいて声を掛けて来ると、あの人だと僕の中で確信。
円帝女学院サッカー部のキャプテンにして、守神叶監督の娘である守神芹華さんだ。
「芹華さん、お久しぶりです」
「ああ、恋風は調子が良さそうだな。決勝で再び戦う事になるとは……」
円帝との初めての練習試合から1ヶ月以上は経っている。
あの時は決勝で再戦するとか考えてなかったけど、恋風の皆は強くなって優秀な選手も集まったりと──。
「真理華もそちらで元気に活躍してるみたいで、準決勝では活躍していたな」
「あ、はい。あれは真理華さんが流れを変えてくれたおかげで勝てたと思ってます」
「それだけではなく恋風が長く0ー0の均衡を保っていた事も大きい。予選に入ってから我々以外に無失点で来ただけあるな」
恋風の強みは守備、咲月先輩や月夜先輩。
そしてゴールマウスに守華さんと、ガッチリ守ってくれている。
彼女達の守備も大きくて絶対欠かせない存在だ。
「本当皆強くて、僕とかたいした事出来てませんよ」
此処まで来たのは皆の頑張りがあったから、そこに僕が偉そうな事はあまり言えない。
「妹から聞いた話と全然違うな」
「え?」
妹、つまり真理華さんから何か聞いたのかと僕は芹華さんの顔を見上げる。
「君はキックの精度が相当優れていて、女子サッカー部の皆へ教えているらしいじゃないか」
「ああ、まぁ……僕の経験が少しでも力になれればと」
「そのキックが非常に素晴らしいと聞いたぞ」
真理華さんが僕のキックを素晴らしいって、本人からは聞かなかったけど……そこは家族の間で言えるからとか、僕には伝えにくいからかな?
僕も面と向かって言われると、多分恥ずかしくなっちゃいそうだけど。
「時間あればで良いが、君のキック見せてくれないか?」
「え……」
「心配するな、他の部員に言ったりはしない。私の個人的な興味だ」
大事な決勝戦で円帝に有利な事になるのでは、と僕は一瞬頭が過ぎったけど芹華さんは真剣に言ってるように見える。
僕は芹華さんを信じて彼女と共に場所を移動。
☆
芹華Side
たまたま日課のランニングを軽くしていれば小平君に会うとは、その上こうして共に歩く今日の私は幸運に恵まれているらしい。
隣に並んで歩けば愛らしく、話をすれば非常に謙虚で好ましく思う。
その小平君を真理華も気に入ったみたいで、同じサッカー部に入ったと聞いた時には、妹が最大のライバルとなりそうな予感がした。
真理華が私を追って円帝に来るのではなく、自分から違う高校を選んだ時は独り立ちしていくと感じ、寂しさを感じたりしたが結果として小平君と同じサッカー部となる。
聞いて羨ましいと何度思ったか数えきれない。
だから今日ぐらいは良いだろう、私が彼と共に居ても。
「此処は守神家の所有する専用のサッカーグラウンドでな。その家の者がいなければ立ち入りは出来ん」
「そうなんですか、凄いなぁ……」
警備員と軽く挨拶を交わしてから私は小平君を連れてグラウンドの中へ入り、芝生へ足を踏み入れた。
「軽くパス交換してくれれば良い、それで大体上手いか下手かは分かる」
「分かりました」
私は近くにあったサッカーボールをリフティングしながら彼の元へ持って来て、小平君とパス交換を行う。
右足で軽く蹴った球を小平君は右足で正確なトラップをすると、左足で私に返す。
無駄のない綺麗な流れだ。
返ってくるボールも私の足元へ寸分の狂い無く返ってきて、実に受けやすい。
「良い技を持ってるじゃないか小平君、男子サッカー部には入れるぐらいだと思うぞ」
「そうですか?」
私達はパスを出しながら話す。
制服姿ながら上手くボールを受けたり出して来るし、何の世辞も無しで技術は高いと思う。
円帝のレギュラーにも劣らない程に。
「でも僕は入れなかったんです」
「何故だ?」
「体の小ささで高校サッカーじゃ通じないと言われましたから……」
そう語る彼の顔は暗い影を落とし、少しパスに乱れが感じられた。
体の小ささか、確かに彼は小柄な体格で女子でも彼ぐらい小さいのは、あまりいないかもしれない。
この現代サッカー、特に男子はフィジカルによる激突が多くなってきて、選手の大型化も進んでいる。
彼には酷だろうが、小さく華奢な体で戦うには厳しいな。
「それで女子サッカーのマネージャーか。自らの技術を部員達へ伝えたりと」
「あまりたいした事じゃないですけどね……」
「充分凄い事で貢献してると思うぞ。試合を見させてもらったが、恋風のキックは練習試合の時より正確さが増して、良いパスが全体的に出せている」
私は嘘偽りなく恋風の強さを評価する。
敵ではあるが、だからと言って事実と異なる事を言って相手を下げても何の意味もない。
「小平君、間違いなく君は恋風に大きな力をもたらしてる。それが私の感想だ」
「芹華さん……ありがとうごさいます」
そう言って嬉しそうに微笑む彼の顔が非常に可愛らしく、たまらない。
抱き締めて可愛がりたい衝動が襲ってきて、私は冷静さを失おうとしていた。
ポツッ
私に冷静になれと伝えるかのように、空から小さな雨粒が落ちて来る。
それは勢いがすぐ増してしまう。
大事な決勝で風邪を引く訳にはいかないし、彼も雨宿りさせなければ。
「行くぞ小平君!」
「あっ……!」
気づけば私は彼の手を引いて、共に走っていた。




